猫の重症筋無力症とは
重症筋無力症とは、神経から筋肉への伝達がうまくいかなくなっており、筋肉に力が入らない状態です。
筋肉に力が入る仕組みを詳しく説明すると、運動神経からアセチルコリンという物質が分泌され、筋肉側のアセチルコリンの受容体(アセチルコリンを受け取る部位)で受け取ることで、筋肉が収縮します。
重症筋無力症は、筋肉側にあるアセチルコリンの受容体が生まれつき少ない(先天性)、またはそれを攻撃する抗体が産生されていること(後天性)により、筋肉に力が入らず歩けないなどの症状がみられる病気です。
猫で重症筋無力症はまれですが、アビシニアンやソマリで発生しやすいという報告があります。性別による差はみられません。
猫の重症筋無力症の症状
重症筋無力症は神経から筋肉への伝達がうまく伝わらないので、筋肉に力を入れられないことが原因となる症状が主となります。運動をして、そのうち歩けなくなることが多いですが、全てが運動に関連して起こるわけではありません。
猫の重症筋無力症の症状は以下のようなものがあります。
猫の重症筋無力症の症状
- だんだんうまく歩けなくなる
- 歩こうとするがうずくまる
- 声がかすれる
- 頭を腹側に曲げる
- うまく飲み込めない
など
また、重症筋無力症では巨大食道症※を発症することがあり、この場合は主に吐出がみられ、二次的に誤嚥(ごえん)性肺炎が起こりやすくなります。ただし、猫では重症筋無力症での巨大食道症はあまり一般的な症状ではありません。
※巨大食道症とは食道の筋肉がゆるみ、ひろがること。食道がひろがった部分に食べ物がたまるので吐き出してしまい、それにより食べ物などが気管の方に誤って入ることによって起こる誤嚥(ごえん)性肺炎が起きやすくなる。
さらに、重症筋無力症は腫瘍(しゅよう)から二次的に起こることもあり、その腫瘍により元気や食欲がなくなっていることもあります。
猫の重症筋無力症の原因
先天性の重症筋無力症では、アセチルコリン受容体(アセチルコリンを受け取る部位)の数が生まれつき少ないことによります。
後天性の重症筋無力症は、免疫に異常が起こり、アセチルコリン受容体を攻撃する抗体が自分の体で作られてしまうことが原因です。
この免疫異常の仕組みは免疫介在性疾患だけでなく腫瘍(しゅよう)によっても起こることがあります。腫瘍からアセチルコリン受容体に対する抗体が作られ、それにより二次的に重症筋無力症になることがあります(腫瘍随伴症候群:しゅようずいはんしょうこうぐん)。特に胸腺腫で重症筋無力症が起こることが知られています。猫での重症筋無力症の発生はまれですが、猫の重症筋無力症の中では腫瘍に関連して発症する割合が比較的高いです。
重症筋無力症の原因
- 先天性
-
後天性
- 免疫介在性
- 腫瘍(腫瘍随伴症候群)
など
重症筋無力症の検査は、以下のようなものがあります。
重症筋無力症の検査
- 血液検査
- X線検査※1
- テンシロンテスト※2
- アセチルコリン受容体への抗体の測定※3(外部機関へ依頼)
- 筋生検※4
(※1)重症筋無力症は腫瘍(しゅよう)に関連して起こることがあり、特に胸腺腫(心臓の頭側にある胸腺の腫瘍)に関連することがあるので、それを見逃さないためにX線検査を行います。胸部腫瘍が見つかった場合は、さらなる必要な検査が行われます。 さらに、猫ではまれですが、重症筋無力症では巨大食道症を発症することがあり、治療や今後の経過や生活に影響するので、その有無が調べられます。
(※2)テンシロンテストとは、歩けない状態下で、アセチルコリンを増強する薬(アセチルコリンの分解を阻害する薬)を投与し、その反応をみる検査です。重症筋無力症であれば、薬の効果により筋緊張が戻るので、運動機能が改善し歩けるようになります。 しかし、症状がかなり激しい重症筋無力症や猫の重症筋無力症では反応しない、あるいは反応が分かりにくい例もあり、テンシロンテストで陰性であっても重症筋無力症の可能性を否定することはできません。
(※3)後天性重症筋無力症はアセチルコリン受容体を攻撃する抗体が産生されることで起こるので、アセチルコリン受容体に対する抗体の測定(血液検査)を行うことで診断できます。
(※4)先天性重症筋無力症はアセチルコリン受容体が生まれつき少なく、アセチルコリン受容体への抗体が産生されているわけではないので、アセチルコリン受容体への抗体の測定では診断できません。よって先天性重症筋無力症では筋肉の一部を採取し(筋生検)検査する必要があります。
猫の重症筋無力症の予防方法
重症筋無力症の予防方法はありません。
うまく歩けないなどおかしい様子がみられたら早めに動物病院を受診しましょう。
猫が重症筋無力症になってしまったら
重症筋無力症では、筋が収縮するときに必要なアセチルコリンの作用を強くする薬を使用します。
さらに、免疫異常による重症筋無力症では免疫を抑える薬も投与します。
重症筋無力症の治療は以下のようなものがあります。
重症筋無力症の治療
- ピリドスチグミン(アセチルコリンの分解を抑える)
- ステロイド
- 免疫抑制剤
など
また、巨大食道症も起こっている場合は、
- 立った状態で食事をさせる、食後も数十分立った状態にする
- 誤嚥(ごえん)性肺炎が起こりやすいので、症状に注意し、ステロイドや免疫抑制剤の使用(細菌感染を助長する危険性がある)は慎重にする
- 胃にチューブ(胃ろうチューブ)を入れ、胃に直接栄養を送る
などの対処も必要になります。
巨大食道症を併発しておらず、腫瘍などが原因でない場合は、症状が改善し経過も良いことが多いです。
重症筋無力症は、腫瘍が原因の場合は切除後に投薬が不要になる例もありますが、ほとんどは継続的な治療が必要になります。
歩き方がおかしい、声が変わったなど異常があれば早めに動物病院に連れて行きましょう。