犬の耳血腫とは
犬の耳血腫(じけっしゅ)は、耳介(耳たぶ)の内側が大きく膨れる特徴的な耳の病気です。
耳血腫は、熱感や痛みがあるので、犬は不快感を示します。
犬の耳介(じかい)は、シート状の軟骨を皮膚が覆う構造になっており、その間を血管が走行しています。 耳血腫は、その軟骨に血液の成分が溜まることで起こります。
症状は急に出ることがほとんどです。 犬が急に耳を気にしだしたと思ったら、耳介の一部が風船のように腫れており、驚いて診察を受ける例が多いです。
耳血腫は、治療がされないまま進行すると、耳介が縮れたり、耳介の内側がこぶ状になったりと、耳介が変形する可能性も高い病気です。
犬の耳血腫の症状
耳血腫の大きな特徴は、耳介の内側が風船のように膨れる外観です。 そのため、外観によりほぼ診断できます。
耳血腫は熱を帯び、液の充満によって皮膚が張り、痛みを感じます。 それにより犬は、頻繁に耳を気にするようになります。
耳血腫の主な症状
- 耳介が膨れる
- ひっきりなしに頭を振る
- 肢で耳をかく
など
耳血腫の症状は急に起こりますが、外耳炎を併発していることも多いです。 その場合は、耳血腫になる前から耳を痒がるなど、外耳炎の症状がみられています。
外耳炎の主な症状
- 耳をかゆがる(かく、頭を振る)
- 耳が臭い
- 耳垢が増える
- 耳の穴周囲が赤い、腫れている
など
犬の耳血腫の原因
耳血腫の詳しい原因はわかっていませんが、耳介の軟骨を傷害するなんらかの異常が起こっていることは、間違いありません。
耳血腫の要因として最も考えられているのは、頭を振る、耳介を足でかくなどの行為で耳介に傷害が起き、耳血腫を発症するということです。 この行為を引き起こす一般的な原因として、耳ダニ、外耳炎、外部寄生虫、耳内異物、アレルギーなどが挙げられます。
他の研究では、耳血腫の原因として自己免疫の関連も疑われています。
犬の耳血腫の予防方法
耳血腫は、耳の違和感による行動で症状が悪化する可能性があります。 日常で対策できることは外耳炎の予防や早期治療、マダニなどの外部寄生虫に対する予防になります。
中でも細菌やマラセチアとよばれる真菌(酵母)による外耳炎は、耳血腫を起こしている犬の多くでみられます。 外耳炎が耳血腫の発症に、どの程度関連しているかは不明ですが、外耳炎を早期に治療し、しっかり治すことが重要と考えられます。
また、耳が大きく垂れている犬種(ラブラドール、ビーグル、コッカーなど)は、耳血腫になりやすいといわれているので、注意しましょう。
耳血腫の予防
- こまめな耳のチェック
- 耳をかゆがる仕草がないかの観察
- 外耳炎の早期治療
- ノミ・ダニの定期的な予防
- 異常があれば早期受診
など
やはり、耳、眼、皮膚など、体の状態のチェックを習慣化することが大切です。 日ごろから体を触られ慣れていると、診察もスムーズに進みやすいです。 散歩の前やコミュニケーションの一環として行ってみましょう。
犬が耳血腫になってしまったら
耳血腫の基本的な治療は排液をし、耳介にできた空洞を閉じることです。
治療はいくつか方法があります。
通院処置
①針を刺し排液後ステロイド剤を注入
処置
まず、全身麻酔をかけない治療として、針を耳血腫に刺し、液体を吸引し、その後空洞内にステロイド剤を注入する方法があります。
その処置後に、包帯などで頭部を圧迫固定します。 圧迫固定とは一般的に、耳介の内側が外を向くように耳介を反転させ、ガーゼなどで挟みます。 そして、頭部から首にかけて伸縮性の包帯で巻き、耳介を圧迫する方法です。
また、並行してステロイドの内服を行うことが多いです。 外耳炎に対し抗生剤が処方されることもあります。
経過
処置を行い、貯留している液体を抜いても、また液体がたまるので、数日か早ければ処置翌日には膨らみます。 膨らんだら抜くという作業を繰り返すと、だんだん液体がたまるまでの時間が長くなり、最終的に耳血腫が一旦治っていくので、それを目標に行います。
これは診察室で行える治療法ですが、治まるまで数日おきに通院が必要になり、すぐ再発する可能性もあります。 そのため、この方法は耳血腫が軽度である場合に行われます。
早ければ2~3回の通院で治まることもあります。 この処置で良化しない、あるいは悪化する場合は外科的治療(③、④)を考慮します。
② 耳血腫にインターフェロンを注入
もうひとつの通院処置の方法として、耳血腫から液を抜かず、インターフェロンを注入するというものがあります。
インターフェロンとは動物の体内でも産生されるたんぱく質で、ウイルスや腫瘍などから体を守る働きや免疫への作用があるものです。
この方法でも並行してステロイド剤を内服し、数日おきに通院、処置を行います。
外科的治療
麻酔下で行う治療は、
- 排液できる管(ドレーン)を設置する方法
- 手術で排液の穴を開ける方法
があります。
③ 全身麻酔下または軽い麻酔下で、ドレーンを設置
ドレーンを設置する方法は、設置後定期的な受診が必要で、症状が治まったら管を抜きます。
④ 全身麻酔下で、排液のための穴を開け、空洞を縫合で閉じる
手術で排液の穴を開ける方法は、
- 耳血腫に数か所穴を開ける方法
- 大きく切開を入れて排液可能にし、耳の皮膚を縫合し、耳血腫でできた空洞を閉じる方法
があり、耳の圧迫固定も行います。
外科的治療は、耳血腫の状態が進行している場合や、針での排液(通院処置)で耳血腫が治まらないときなどに施します。
これらの治療では、全身麻酔が必要ですが、状態が早く良くなることが特徴です。 治療方法は動物病院や獣医師によって異なりますが、排液、空洞の閉鎖という基本目的に沿って行われます。
手術は耳介の形をなるべく保つことを目標に行われます。 しかし、すでに進行しており、軟骨の変形や耳介のこぶ状の隆起などが起こっている場合は、耳介がくしゅくしゅと縮まったように変形することも多いです。 この変形した耳は「カリフラワー耳」といわれます。
耳血腫の治療のとき、耳を肢でかいたり、圧迫固定の包帯を取ったりしないようにエリザベスカラーを装着することがあります。 圧迫固定は、首から頭にかけて伸縮性の包帯を使用するので、家に帰って苦しそうでないかみてあげましょう。
治療費の一例は以下の通りです。 この例はコッカー・スパニエルで外耳炎を併発しており、その治療費も含まれています。 治療は通院のみで上記①の治療方法が行われています。
治療費例
- 治療期間:7週間
- 通院回数:11回
- 合計治療費用:約7万円(外耳炎治療費 約2万円含む)
- 一通院当たりの治療費例:2,000~約2万円(診察料、排液・圧迫固定・洗浄等処置、内用薬、外用薬、消毒薬)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
この例のように外耳炎の治療も行い、通院回数が多くなることもあります。 通院が長期にわたる場合、経過や状態をみて外科的治療を検討されることもあります。
耳血腫は見た目だけでなく、動物自身も違和感や痛みがあるので、症状がみつかったら、動物病院で診察を受けることが大切です。