犬のエプリスとは
エプリスとは、口腔内にできる腫瘍の一種で、イヌでは比較的発生が多くみられます。エプリスは歯の周りで歯を支える靭帯(じんたい)から発生する歯肉の良性腫瘍です。
エプリスはさまざまな分類がされますが、主に以下のように分けられます。
エプリスの分類
- 線維性
- 骨性
- 棘(きょく)細胞性
犬で最もみられるのが線維性エプリスです。線維性、骨性エプリスは、病理組織検査で骨成分がみられるかどうかで分類されます。
棘(きょく)細胞性エプリスは発生した部位で深く広がっていきます。歯根部を含め、骨を溶かし顎の骨まで広がります。
見た目はカリフラワー状で、口腔内の扁平上皮癌と外観が似ていることもあります。
良性ではありますが、腫瘍の広がりや動きは一般的な良性腫瘍よりも活発です。
また、線維性、骨性、棘細胞性エプリスの他にも巨(きょ)細胞性エプリスという分類もあります。
犬のエプリスの症状
エプリスの症状は以下のような、口の中にできものができたときの症状が挙げられます。
エプリスの主な症状
- 歯肉に盛り上がったようなできものができる
- 口臭
- 食べにくそうにする(腫瘍が大きくなった場合)
- 唾液に血が混じる
など
線維性、骨性エプリス、棘(きょく)細胞性エプリス、それぞれの発生しやすい部位、年齢は以下の通りです。
線維性、骨性エプリス
切歯(左右の犬歯の間の前歯)や前臼歯(犬歯の後ろ4本の歯)付近の歯肉によく発生し、平均発症年齢は8~9歳です。
棘細胞性エプリス
上下の切歯(左右の犬歯の間の前歯)によくみられ、発症の平均年齢は7~10歳です。
犬のエプリスの原因
犬がエプリスを発症するはっきりした原因はわかっていません。
ただし、棘(きょく)細胞性エプリスでは、シェットランド・シープドッグやオールド・イングリッシュ・シープドッグで遺伝的な素因がみられています。
以下はエプリスになったときに行われる主な検査です。
エプリスの主な検査
- X線検査
- 病理組織検査(生検後、外部機関へ依頼)
- CT検査
など
この他にも、麻酔をかけて生検が行われるときは麻酔をかけられる状態かどうかを確認するために血液検査などが行われます。
犬のエプリスの予防方法
エプリスの明確な予防方法はありません。
早期発見・早期治療を心がけ、歯磨きなどの歯のホームケアや日ごろの体のチェックの際に口腔内にできものができていないかを定期的にみることが大切です。
犬がエプリスになってしまったら
エプリスは転移が報告されていない良性の腫瘍なので、発生した部位で腫瘍を切除、または抑えることが治療において最も重要になります。
ただし棘(きょく)細胞性エプリスに関しては、良性の腫瘍といっても腫瘍の動きや広がりが線維性、骨性エプリスと異なり、より活発なので、切除範囲も大きく経過にも注意を必要とします。
それぞれの主な治療は以下のようなものがあります。
線維性、骨性エプリス
外科的切除を行えば経過は良好です。
発生部位の歯を含めて切除されることもあります。
線維性、骨性エプリスは増殖速度が遅いですが、そのまま放っておくと腫瘍が大きくなり食べることなどが困難になる場合もあります。
棘細胞性エプリス
外科的手術や放射線療法が行われます。
棘(きょく)細胞性エプリスは、骨を侵し広がる力が強いので、外科的切除を行う際は顎の骨ごと切除します。骨を含めた切除を行うと再発率が格段に下がります。
放射線療法に関しては特殊な設備が必要なので、大学付属動物病院などの二次診療施設に限られます。放射線療法を行う際には全身麻酔をかけ、治療計画によっては毎日、または数日おきに行われることもあります。
以下は治療費の一例です。骨性エプリスを発症した犬で、生検を兼ねた外科的切除が行われました。
治療費例
- 治療期間:1か月
- 通院回数:2回、手術回数1回
- 合計治療費用:103,703円
- 一通院当たりの治療費例:600~2,500円(診察料、処置)
- 手術費用:約10万円(診察料、病理検査、生検、血液検査、X線検査、CT検査、心電図、血圧測定、麻酔、内用薬)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。事例の特定を避けるため、おおまかな治療費を掲載しています。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
この例では生検と外科的切除は1回で行われましたが、中には部分切除を行い病理組織検査に出し、結果によってさらに必要な部分を切除するという過程が取られることもあります。
エプリスに限らず、口腔腫瘍は早期発見・早期治療が大切です。しかし、意識的に口の中のチェックを行わないと発見されにくいものでもあります。口を触られるのを嫌がる犬も多いので、できる範囲で定期的に口腔内のチェックを行ったり、異常がないか観察したりしましょう。