犬の免疫介在性血小板減少症とは
血小板とは出血が起こったときに出血部位に集まり、最初に止血の役割を果たす血液中の成分のひとつです。
犬の免疫介在性血小板減少(IMT:Immune-Mediated Thrombocytopenia)とは、自分の血液中の血小板に対し、免疫異常により自己の免疫が血小板を攻撃し破壊してしまう病気のことで、生涯治療が必要となります。
止血を行うシステムは大きく二つに分けられます。
まず血小板が出血部位に集まり固まることで血管の穴を仮止めする「一次止血」と、そのあとさまざまな物質(凝固因子やフィブリンなど)が働き、その仮止めの部分を長期的で強固なものとする「二次止血」があります。
血小板が著しく減少し血中にほとんどないような状態になると、この止血のシステムがうまく働かなくなり、一度出血すると止まりにくく、さらには自然に出血が起こるようになります。
犬の免疫介在性血小板減少症の症状
免疫介在性血小板減少症の症状には以下のようなものがみられます。
免疫介在性血小板減少症の症状
- 点状または斑状出血
- 皮膚や粘膜での出血
- 血尿
- 鼻出血
- 元気消失
- 食欲低下
- 血管に針を刺した直後に血が止まりにくい
など
点状または斑状出血とは、一次止血異常のときに特徴的に現れる症状で、小さい点状やそれより大きい斑状の出血が体のあちこちで起こります。点状出血はごく小さいことも多く、注意して観察しないと見逃すこともあります。
唇などの口腔内や白眼の部分にも点状出血は現れます。
また、耳介(耳たぶ)の内側や外陰部周辺、首、脇、胸部、腹部、体の側面、背部などあらゆるところで出血は起こります。
犬の免疫介在性血小板減少症の原因
免疫介在性血小板減少症は、自己免疫が血小板に対する抗体(免疫が異物を排除するシステム中で働くもののひとつ)を作ってしまい、その抗体が血小板の表面に結び付き、血小板が破壊されることにより起こります。簡単に言えば、血中の血小板に対する自己免疫の異常な反応です。
薬剤や腫瘍(しゅよう)などで自己免疫が刺激され、免疫介在性血小板減少症を発症する場合もありますが(二次性という)、ここからはそれらの他の原因がない場合の免疫介在性血小板減少症(原発性)について説明します。
免疫介在性血小板減少症の検査は以下のようなものがあります。
免疫介在性血小板減少症の検査
- 全身の出血部位の確認・記録
- 血液検査
- 出血時間(BT:Bleeding Time) ※
- 凝固系検査(血液検査)
- X線検査
- 超音波検査
など
※小さな切り傷を入れ、その出血持続時間により一次止血機能が働いているかを調べる検査
この他にも、必要であれば他の検査も行われます。
犬の免疫介在性血小板減少症の予防方法
免疫介在性血小板減少症のはっきりした予防方法は存在しません。
免疫介在性血小板減少症が急性に進行してくると、数時間後には新たな点状出血や斑状出血ができるまたは大きくなるということがあるので、時間とともに出血部位を記録しておくのも、診察の際や治療中の管理にとても役立ちます。
犬が免疫介在性血小板減少症になってしまったら
免疫介在性血小板減少症は免疫異常により起こるので、過剰な免疫を抑える治療を行い、自己免疫による血小板の破壊を止めます。
免疫介在性血小板減少症の多くはステロイド剤での治療に反応します。
主に最初はステロイド剤が使われ、状況によってはそれと並行して他の免疫抑制剤が使用されます。ステロイド剤は効果を発揮するのが早いですが、他の免疫抑制剤は効果が現れるまで数週間かかることも多く、必要であれば早めにステロイド剤と併用されます。
他の免疫抑制剤は、
- ステロイド剤と併用して免疫抑制作用の増強を図る
- ステロイド剤は長期的に使用するとさまざまな副作用が出てくる可能性があるので、ステロイド剤を減らし、他のより副作用の少ない免疫抑制剤を長期的に使用するため
などの目的で使用されます。
ステロイド剤や他の免疫抑制剤以外には、ビンクリスチンという抗がん剤が免疫抑制の目的で使用されることがあります。
これはステロイド剤では治療に反応せず、そして病状が重度であったり進行が早かったりするときに緊急的に使われることが多いです。
ヒト免疫グロブリンも同様の場面で使用されることが多く、これに関しては動物の体の中にヒト免疫グロブリンに対する抗体が形成されるので、複数回使用できるものではありません。
また、院内で点滴から血管の中に入れていくのですが、この薬剤に対して深刻なアレルギー反応が起きる場合もあり、飼い主様はそのことを十分理解した上で治療を行い、投与中、投与後は獣医師やスタッフによるしっかりとした観察が必要になります。
ビンクリスチンやヒト免疫グロブリンに関しては、ステロイドや他の免疫抑制剤に反応しなかった例で効果がみられることもありますが、もちろん犬によって効果がある例と全く反応がみられない例があります。
また、輸血(血しょうまたは全血輸血)は、重度の血小板減少や貧血による致死的な状況を避けることと、体が治療に反応するまで命を繋ぐために行われます。よってこれは一時的な処置であり、根本的な治療ではありません。
免疫介在性血小板減少症の治療
- ステロイド剤
- 免疫抑制剤
- ビンクリスチン(抗がん剤)
- ヒト免疫グロブリン
- 輸血(血しょうまたは全血輸血)
など
さらに、自己免疫が血中の血小板を攻撃・破壊するのが免疫介在性血小板減少症(IMT)ですが、これと同時に自己免疫が赤血球を攻撃・破壊する免疫介在性貧血(IMHA:Immune-Mediated Hemolytic Anemia)が併発することがあります。これらが併発している状態はエバンス症候群と呼ばれ、経過は非常に厳しいものになることが多いです。
ステロイドの治療で改善がみられた場合、長期的に少しずつ投与するステロイドの量を減らしていき、免疫の適切な状態を維持でき、かつできるだけステロイドの投与量を抑えるということを目指します。
免疫介在性血小板減少症は治療を続けていても再発することもあります。
また、症状が良くなったからといって飼い主様の自己判断で薬をやめてしまうと、再発してしまい、さらに今度は薬剤に反応しなくなるといったこともあります。定期的な診察と血液検査、また治療をしっかりと続け、おかしいことや困ったことがあればすぐに病院に相談するということが非常に重要です。
免疫介在性血小板減少症はステロイド剤や他の免疫抑制剤を使った治療に良く反応することも多いですが、同時に治療の効果が乏しいまたはない場合もあり、そうなると致死的な病気です。
非常に早く進行することもあるので、おかしい様子が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。