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猫の自律神経障害とは、自律神経の機能が全身的にうまく働かない病気です。自律神経の神経節(神経細胞が集まり節状になっているところ)では萎縮や細胞の状態の変化、神経細胞の減少などがみられます。
猫のこの病気は1982年にヨーロッパで初めて報告され、「キー・ガスケル症候群(Key-Gaskell syndrome)」とも呼ばれてきました。馬や犬など他の動物でも類似した疾患が報告されています。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、眼や肺、その他さまざまな内臓の動き、体液の分泌調整など体の働きを維持するために大きな役割を担っています。
具体的には、
・肺
・眼
・分泌物(涙や汗、唾液など)
・消化管(食道、胃、腸)
・膀胱
などの他にも肝臓や腎臓、脾臓などあらゆる臓器に関係します。
そのため、自律神経に障害が起こると、まずは元気や食欲がなくなり、胃腸が動かず嘔吐などの消化器症状が出たりします。
自律神経障害の程度はきわめて急性から慢性までさまざまですが、自律神経の働きが障害されている部分が症状となって現れます。どの年齢でも発症する可能性はありますが、多くは3歳以下の若い猫です。
以下が自律神経障害で見られる症状です。
・元気がなく暗い
・食欲不振
・体重減少
・嘔吐、吐出※
※食べ物を摂取後短時間で吐き戻す
・便秘、下痢
・誤嚥(ごえん)性肺炎
※水や食べ物などが呼吸器の方に吸引され起こる肺炎
・涙量の低下
・粘膜の乾燥(口腔や鼻)
・瞬膜(目頭側から出る膜)の突出
・両目の瞳孔が大きくなる(光への反応とは無関係)
・胃腸が動かない
・腸の運動機能不全による腸閉塞
・巨大食道
※食道がゆるみきってしまい、食べ物を送る機能を果たさない
・巨大結腸
※最後の方の腸が動かず、ゆるみきってしまう
・排尿障害(膀胱が収縮せず尿が貯まる)
・尿、便失禁
・心拍数の低下
など
自律神経障害の猫の数は多くなく、病気が起こる原因や仕組みは解明されていません。
自律神経障害という診断をはっきりと出すには、神経などの病理組織検査をする必要があり、生前には行うことができません。
自律神経障害が疑われたとき、動物病院で行うことのできる検査は以下の通りです。
・血液検査
・X線検査
・超音波検査
・シルマーティア試験
※試験紙をまぶたと眼球の間にはさみ涙量を測定する検査
・尿検査
など
猫白血病ウイルス(FeLV)感染でも、瞳孔が左右非対称になるなどの症状があるので、猫白血病ウイルス検査を行い、その可能性を除外することがあります。
特殊な検査としては、末梢の副交感神経を興奮させる薬剤を少量含んだ目薬を点眼し、一定時間で瞳孔が小さくなるかをみるものなどがあります。(健康な猫では反応が起きない)
自律神経障害は、さまざまな症状や経過、他に隠れている疾患がないことなどから総合的に判断されます。
自律神経障害の原因は不明のため、自律神経障害を予防する方法はありません。
自律神経障害への治療は、各症状を緩和させるものになります。集中的な看護で猫のためにできることを行います。
・輸液療法による脱水改善
・経鼻チューブまたは胃ろう
※胃ろう:水分や栄養分を胃に入れられるように管を体の外から胃に直接通す
・誤嚥しないように食事中、食後体を立てる
・浣腸
※直腸から温かい液を入れ、糞便をかき出す
・角膜を乾燥から保護する点眼や眼軟膏
・涙の産生などを促す点眼
・消化管運動促進剤の投与
・副交感神経の働きを促進させる薬剤の投与
など
他にも、体温が低ければ体を温めたり、ブラッシングやこまめなケアで環境や体を清潔に保ったりすることなどが挙げられます。
自律神経障害で食道がうまく機能せず起こる誤嚥性肺炎は猫の命を脅かします。吐出がうまくコントロールできなければ誤嚥性肺炎は猫にとって大きな脅威となるので、その管理が非常に重要です。
自律神経障害の経過は非常に厳しいものになります。まれに治っていく猫もいますが、その数は少なく、治るまでには1年以上を要します。懸命な介護や治療にもかかわらず、海外の報告では助かる猫は4分の1以下といわれます。
猫におかしい様子が見られたら、早めに病院に連れて行き、必要な処置や看護を受けられるようにしましょう。