犬のジアルジア症とは
ジアルジアとは単細胞で運動機能や生殖機能などを有する原虫の一種で、人や動物に感染します。
人では衛生環境が整っていない熱帯や亜熱帯の発展途上国などでの発生が多く、日本では診断から7日以内に医師が最寄りの保健所に届け出る必要があります。
犬のジアルジア症の症状
犬でのジアルジア感染は子犬が多く、下痢や食欲不振などがみられます。しかし、感染していても症状が出ないことも多いといわれています。
犬のジアルジア症の症状
- 下痢
- 食欲不振
- 腹痛
など
犬のジアルジア症の原因
ジアルジアは感染動物の糞便中にシストと呼ばれる感染可能な形で排泄され、それを他の動物が口にすることで感染します。
ジアルジアの寄生サイクル
①感染したジアルジアはシストから運動機能を持つ栄養型(トロフォゾイト)となり、消化管上皮に付着します。
②消化管上皮で分裂し(無性生殖)、再度シストとなり糞便中に排泄されます。
③シストが入った糞便や、糞便からシストがとけだした土壌や水を口にすることで感染します。
人のジアルジアの感染経路は主に水や食物を介したものです。日本では発展途上国を旅行した人がかかることがほとんどです。
ジアルジアは動物から人に感染する可能性のある人獣共通感染症(ズーノシス)とされていますが、実際に動物から人にうつるかどうかについてはいまだにはっきりしていません。しかし、人と犬からそれぞれ分離されたジアルジアの遺伝子型に共通するものもあったという研究も報告され、犬から人へのジアルジアの感染の可能性が示唆されています。
ジアルジアの検出には糞便検査が行われます。
しかし、ジアルジアは糞便中に常に排泄されているわけではなく、糞便検査でも検出が難しいので短期間で複数回にわたって糞便検査を行います。
検査で検出されなくてもジアルジアが疑わしい場合は、治療を始めることもあります。
糞便検査の他には糞便を用いた簡単な検査キットや、リアルタイムPCRという方法を使いDNAやRNAの一部を増殖しジアルジアの検出を行う検査(外部機関へ依頼)があります。
犬のジアルジア症の予防方法
ジアルジア症は無症状のことも多く、予防は難しいのが現状です。
子犬でかかりやすいので、子犬を迎えた場合は動物病院で糞便検査を行うことで、症状が出ていないジアルジア症や他の寄生虫感染を検出できることがあるかもしれません。予防時に糞便検査も行うか、または排便からあまり時間が経過していなければ糞便のみを持参しても糞便検査はできるので、気軽に動物病院に相談してみましょう。
また、水たまりなどもジアルジアに汚染されている可能性があります。散歩中の誤食や、水たまりなどでの飲水は避けるようにしましょう。
さらに、感染犬と接触した場合も、ジアルジアがうつることがあります。感染犬や複数の犬が集まる場所で自由に動き回ったり接触したりした後は下痢などがないか注意し、異常があれば動物病院で診察を受けましょう。
犬がジアルジア症になってしまったら
ジアルジアの治療にはメトロニダゾールやフェンベンダゾールなどといった薬が使用されます。
また、食事に線維を増やすことで細菌の過剰増殖やジアルジアの腸の上皮細胞への接着を軽減できるといわれています。
さらに、自分の糞便中のシストを口にすることで再感染を起こし、治療をしてもなかなかジアルジアを除ききることができなくなるので、糞便の処理や環境の消毒をしっかり行う必要があります。
犬がジアルジアにかかった場合は環境や器具の消毒が必要になります。
犬が使用しているものや接触している場所は清掃・消毒を行います。可能であれば治療が終わるまで毎日行うことが望ましいとされています。
まず、糞便があればこまめに取りポリ袋に入れて捨ててください。このとき、手袋を着用するようにしましょう。糞便をきれいに取り除き洗えたら、次は消毒です。
消毒を行うものは以下のようなものがあります。
①床など硬い表面
ジアルジアは通常濃度の塩素では消毒できませんが、5%の次亜塩素酸ナトリウムを30倍薄めた液は有効とされています。また、4級アンモニウム塩(例:塩化ベンザルコニウム)を含む洗剤もジアルジアの消毒が可能といわれています。
消毒したい表面に5~20分は消毒液が留まるようにすると消毒効果が高まります。
②布(革)張りの家具やカーペット
布や革張りの家具やカーペットでは糞便などをきれいにし、よく乾燥させた後、スチームクリーナーを使い70℃で5分間、または100℃で1分間のスチームを当てると消毒の助けになります 。そのとき4級アンモニウム塩を含んだ製品を使用することもいいでしょう。製品説明に従って使用してください。
③食器や飲水器など
食器や飲水器など煮沸消毒できるものは、1分間の煮沸でジアルジアを消毒できます。
④タオルやおもちゃ(布製)、ベッドなど
タオルなどの布製品を乾燥させるときは太陽光に直接全体が当たるようにしましょう。
その他、草地や土の上などは消毒できませんが、感染した犬が通ったり生活したりしたところは少なくとも1か月は感染源となるので気を付けましょう。
また、糞便や汚染された物、場所を清掃・消毒するときは手袋を着用し、手をしっかり洗うことが人への感染を防ぐために大切です。
消毒中や消毒薬の保管時に犬が誤って消毒薬を口にすることのないよう注意しましょう。
治療費例は以下の通りです。これは1歳未満の中型犬の子犬がジアルジアに感染した例です。下痢で受診しましたが、最初の診察日には糞便検査でジアルジアは検出されず、再診時にようやく検出されました。
2016年1月~2017年12月末までのジアルジア感染による当社への保険請求は、1歳齢未満の子犬が86%を占めており、多くの方が受診されています。
治療費例
- 治療期間:5週間
- 通院回数:5回
- 合計治療費用:28,998円
- 一通院当たりの治療費例:4,500~8,600円(診察料、糞便検査(直接法、集虫法)、ジアルジア検出簡易検査(糞便使用)、内用薬)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
ジアルジアは犬から人への感染については明らかになっていませんが、ジアルジアにかかりやすいといわれる子供や、何らかの病気や治療で免疫が低下している状態の方がいる場合は特に気を付ける必要があるでしょう。