犬の偽妊娠とは
偽妊娠とは、実際には妊娠していないですが、ホルモンのバランスにより体が妊娠したと勘違いしてしまう状態のことです。これは、生殖器官の異常によって引き起こされるものではなく、病気ではありません。よって繁殖能力に異常はありませんし、発情後にどの犬でも起こる可能性があります。
一般的に発情後1~2か月ほどで偽妊娠の状態になることが多いです。
一度、発情時に偽妊娠になった犬では、その後も発情の度に偽妊娠になりやすくなります。
犬の偽妊娠の症状
ごく軽度な偽妊娠の場合には、ほとんど症状がみられないこともあります。
偽妊娠の症状は以下のようなものが挙げられます。
偽妊娠の症状
- 母犬のようにおもちゃ(ぬいぐるみなど)を世話する
- 巣作り行動をする
- 攻撃的になる
- 乳腺が腫れる、熱感がある
- 乳汁が出る
- 乳房や乳頭をなめる
- 元気がない
- 食欲低下
など
乳腺が腫れたり乳汁が出たりする場合は、乳腺炎になる可能性もあります。
犬の偽妊娠の原因
犬の偽妊娠は、ホルモンのバランスの変化で起こります。
発情周期の中でも黄体期といって発情の終わりごろにプロゲステロンというホルモン分泌が維持されている期間があります。その後プロゲステロンの分泌量が下がったときにプロラクチンというホルモンが妊娠した犬と同じように著しく上昇すると偽妊娠に繋がります。偽妊娠のさまざまな症状はこのプロラクチンが大きく関係していることが分かっています。
受診の際には、前回の発情はいつ始まりいつ終わったか、今の犬の行動や生活に支障はあるか等の聞き取り、体の視診・触診などが行われます。
犬の偽妊娠の予防方法
偽妊娠の予防方法は避妊手術です。一般的に卵巣子宮摘出術が行われることが多いです。
事前の避妊手術は子宮蓄膿症などの緊急疾患の予防や乳腺腫瘍の発症率を下げる※こともできます。
※発情前の避妊手術で乳腺腫瘍の発症率が一番低くなり、2回目の発情以降や2歳以降の避妊手術は乳腺腫瘍の発症率はあまり変わらないといわれている。
また、発情の終わり頃に避妊手術を行うとホルモンのバランスが急激に変わり偽妊娠が起こる場合があります。
それ以外にも発情の間は、卵巣や子宮、その周辺の組織がもろくなったり血流が増大して出血が多くなったりする、免疫機能が低下するなどの状態になっています。
特別な事情がなければ発情している間は避妊手術を避けましょう。発情後8~10週ほど経てば、避妊手術後の偽妊娠を避けられるといわれています。
犬が偽妊娠になってしまったら
偽妊娠になったときに、乳腺炎などの合併症や生活に支障が出るなどの状況がなければ、特に治療は必要ありません。通常は時間と共に治まっていきます。
偽妊娠の期間を短くする工夫として、自分の子犬のように世話をしているぬいぐるみを取り除く、自分の乳房や乳頭をなめているときはエリザベスカラーや着衣の装着でなめることを防ぐなど、偽妊娠の行動を強化しないようにします。
かなり攻撃的あるいは神経質になる、乳腺に熱感や痛みがあるなど、生活上に支障がある場合は薬剤の使用などを考慮します。犬の状況や獣医師により使用する薬剤などは異なりますが、その薬剤のひとつとしてカベルゴリンというプロラクチンの分泌を低下させる薬もあります。
偽妊娠に永続的にならないようにするには避妊手術を行います。
偽妊娠を発情の度に繰り返し、乳腺や精神状態、元気などに影響があり、繁殖を考えていない場合は、避妊手術をすることで犬の負担を軽くすることができるかもしれません。
避妊手術は子宮蓄膿症などの生殖器の疾患を予防することもできます。避妊手術を行うことを迷うようであれば獣医師や動物病院のスタッフに不安な点や疑問などを相談し、その犬自身の状況に合わせたメリット・デメリットを把握し決めていきましょう。