猫の胸腺腫とは
胸腺とは心臓の頭側にあり、骨髄から移動してきた未熟なリンパ球が免疫の働きを持つリンパ球(Tリンパ球)に育ち、増える場となっています。
胸腺腫は胸腺の上皮細胞が腫瘍(しゅよう)化して起き、良性と悪性があります。
猫の胸腺腫は老齢の猫でみられます。
猫の胸腺腫の症状
胸腺腫は心臓よりも頭側で腫瘍が大きくなり、胸水が溜まることも多いです。胸腺腫の症状は主に呼吸困難に関するものが起こります。
胸腺腫の症状は以下のようなものが挙げられます。
胸腺腫の症状
- 食欲不振
- 元気低下
- 呼吸を肩でしている
- 呼吸が早いまたはしんどそう
- 咳
- 呼吸困難
など
胸水が少量の場合は、運動や興奮するといつもよりすぐしんどそうにする(呼吸が早い、肩で呼吸をする)ことがあります。
また、胸腺腫になると、猫ではまれですが、重症筋無力症を発症することがあります。
他には、胸腺腫になった後で、免疫異常によって起こる疾患である多発性筋炎(免疫異常によりいろいろな筋肉に炎症が起こる)や免疫介在性貧血(自分の免疫が赤血球を攻撃し破壊することで起こる貧血)などになる例も報告されています。
胸腺腫の転移は報告されていますが、転移率はあまり高くはありません。
猫の胸腺腫の原因
猫の胸腺腫の原因は分かっていません。
胸腺腫のときに行われる検査は次のようなものがあります。
猫の胸腺腫の検査
- 血液検査
- FIV/ FeLV検査
- X線検査
- 超音波検査
- 胸水検査(胸水がたまっている場合)
- FNA検査(細胞診)
- CT検査/ MRI検査
- 病理組織検査
※猫免疫不全ウイルス(猫エイズウイルス:FIV)と猫白血病ウイルス(FeLV)に対する感染を調べる血液検査
※超音波を当てながら針を胸腺に刺し吸引して細胞を採取し、顕微鏡下でみる検査
※生検(胸腺の組織の塊を手術で取る)を行い顕微鏡下でどのような状態や病気なのかをみる
など
胸腺腫は腫瘍の中に液体などを含んだ小さな袋が複数あるような状態(のう胞状)になっているので、FNA検査による細胞診では、適切な材料が採れず、正確な判断ができないこともあります。
胸腺腫の他に、胸部で心臓の頭側にできる腫瘍としてリンパ腫が挙げられます。胸腺腫とリンパ腫は治療が異なるので、区別が必要です。猫では猫免疫不全ウイルス(猫エイズウイルス:FIV)と猫白血病ウイルス(FeLV)に感染しているとリンパ腫になりやすくなるので、ウイルス検査(FIV/ FeLV検査)を行うことがあります。しかし、このウイルス検査で陽性だからといって、胸部腫瘍が全てリンパ腫であるわけではありません。
胸腺腫の確定診断は病理組織検査で行われますが、胸腺腫の悪性度は組織学的にではなく、周りの部分をどのぐらい侵しているか、切除可能なのか、転移をするかなどで決まります。
猫の胸腺腫の予防方法
胸腺腫は原因が分からないので、予防方法も特にはありません。
食欲や元気がなく呼吸をするのがしんどそうな様子などがみられたら動物病院に連れて行きましょう。
猫が胸腺腫になってしまったら
胸腺腫の治療は外科的切除です。
胸腺腫が切除できない状態であれば、化学療法(抗がん剤など)が考慮されますが、化学療法は、外科的切除ほど治療効果はみられません。
胸腺腫により発症した重症筋無力症は、手術後に治ることもあれば、治らないこともあります。手術後に治るときも、治るまで数カ月かかる例もみられます。さらに、手術の前に重症筋無力症になっていない例でも、術後に重症筋無力症を発症することがあります。
リンパ腫の治療は化学療法(抗がん剤など)が行われますが、胸腺腫とリンパ腫の区別ができない場合、手術で腫瘍を切除して病理組織検査を行う方法と、先に化学療法を行い、一定期間で効果がみられなければ胸腺腫の可能性が高いとみなし、腫瘍の切除を検討するという方法があります。
他には、胸水がたまると呼吸困難になりますが、抜去できる量までたまっているようなら、当面の呼吸困難を改善するために胸水抜去を行います。
呼吸がしんどそうだったり、元気・食欲の低下がみられたりしたときは早めに動物病院を受診しましょう。