犬のフォンビレブランド病とは
フォンビレブランド病(vWD:von Willebrand Disease)とは、血が止まりにくくなる遺伝性血液疾患です。
犬の遺伝性出血疾患の中では、最も多くみられます。
止血は、さまざまな過程を経て行われます。
止血の最初の過程で、血小板が集まって傷口を固めます。
その際にフォンビレブランド因子は、止血因子として重要な役割を果たします。
このフォンビレブランド因子が血中に先天的に少ない、またはない、十分に機能しないものを、フォンビレブランド病といいます。
犬のフォンビレブランド病の症状
フォンビレブランド病では、止血異常が起こります。
通常、日々の生活の中で自然に出血して血が止まらないということはあまりありません。
手術などで出血して初めて、術中、術後などになかなか血が止まりにくいということがよくみられます。
日常生活では、鼻出血が出たとき、発情時、乳歯が生え変わったときなどに血が止まりにくくなり、発覚することがあります。
フォンビレブランド病には3つのタイプがあり、それぞれ止血異常の程度も異なります。
フォンビレブランド病の各タイプと、それぞれの重症度、また、起こりやすい犬種は以下のようなものがあります。
各タイプと重症度、犬種
●タイプ1:フォンビレブランド因子の量や働き(活性)が少ない
犬のフォンビレブランド病で最も多くみられます。
軽度~中等度の止血異常が起こります。
起こりやすい犬種は、
- ドーベルマン・ピンシャー
- ウェルシュ・コーギー(ペングローブ、カーディガンともに)
- プードル
などです。
●タイプ2:機能しない異常なフォンビレブランド因子が混ざっている
中等度~重度の止血異常が起こる傾向にあります。
起こりやすい犬種は、
- ジャーマン・ショート・ヘアード・ポインター
- ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター
が挙げられます。
●タイプ3:フォンビレブランド因子が血中にない
重度の止血異常が起こり、致死的です。
鼻出血や大きな外傷、手術などで血が止まらなくなり、命を落とすことがあります。
起こりやすい犬種は、
- スコティッシュ・テリア
- シェットランド・シープドッグ
- コーイケルホンディエ
です。
犬のフォンビレブランド病の原因
フォンビレブランド因子は、血小板と血管内の内側の壁を繋ぐ役割があります。
DNAの配列異常により、フォンビレブランド因子の量、または機能に異常が起こり、止血異常が現れます。
発見されている遺伝子変異の部位は同じタイプ内でも犬種などによって異なります。
フォンビレブランド病の検査は、以下のようなものが挙げられます。
フォンビレブランド病の検査
- 視診
- 頬側粘膜出血時間(BMBT)※1
- 血液検査
- 血液凝固系検査
- フォンビレブランド因子の抗原量の測定
- フォンビレブランド因子のマルチマー解析※2
など
※1:頬側粘膜出血時間(BMBT)とは、口唇の内側の粘膜に小さな切り傷を付け、その傷からの出血が止まるまでの時間を測定する検査
※2:マルチマー解析という検査を行い、フォンビレブランド因子の活性をみる
フォンビレブランド因子は、別の凝固因子でもある第Ⅷ(8)因子とも密接にかかわっています。
止血異常の際には、第Ⅷ(8)因子の活性が低下する先天的血液疾患の血友病Aと区別する検査を行うこともあります。
犬のフォンビレブランド病の予防方法
フォンビレブランド病は、繁殖の段階で、遺伝子検査などを行った犬で計画的な繁殖を行うことが唯一の予防方法になります。
ただ、まだ発見されていない遺伝子変異などがある場合は、特定の遺伝子変異がなくても、他の場所の変異でフォンビレブランド病が発症する可能性もあります。
また、フォンビレブランド病の犬は、大きな外傷などをしないように心がけましょう。
発情や乳歯の生え変わりなどでなかなか出血が止まらない様子が見られたりしたら、動物病院に相談、または受診することが大切です。
さらに、フォンビレブランド病を発症した犬や遺伝子変異が確認された犬で、繁殖を行わないようにし、同腹仔(きょうだい)や血縁のある犬でも注意が必要です。
犬がフォンビレブランド病になってしまったら
フォンビレブランド病の犬では、血液中にフォンビレブランド因子の働きが少ない、またはない状態です。
そのため、全血輸血、または血液の一部である血しょう輸血を必要であれば行い、正常なフォンビレブランド因子を補充します。
ただ、貧血や大きな出血が予測されない場合は輸血の必要はありません。
血中にフォンビレブランド因子が少ないタイプ1のフォンビレブランド病の犬に対しては、酢酸デスモプレシンという薬を点鼻します。
この効果は120分ほど持続するといわれており、手術など出血が予測される60分前に投与しておきます。
なお、タイプ2(異常フォンビレブランド因子が混合)とタイプ3(フォンビレブランド因子がない)の犬には、この薬は効果を示しません。
フォンビレブランド病は、タイプ1であれば特に、日常には影響がないことが多く、気が付きにくい病気です。
術前の凝固系検査の異常から判明することもあります。
さらに、術中に血が止まりにくいだけでなく、術後出血する例もみられます。
出血時に血が止まりにくいということはないかなど日ごろから観察し、おかしい様子があれば動物病院に連れて行きましょう。