犬の慢性腎不全とは
慢性腎不全とは腎臓の障害とそれに伴う比較的穏やかな症状が徐々に進んでいく腎臓の病気です。
慢性腎不全は治るものではなく、元に戻らない進行性の疾患で、治療の目的は少しでも腎不全の進行を遅らせることです。
腎臓は左右対称にひとつずつ背中側に位置しています。
正常な腎臓の働きには、
- 体内のさまざまな物質の分解物(老廃物)、化学物質などの排泄
- 電解質※1の調節(排泄)
- ホルモンの産生・分泌※2
などの他にも体液量や血液のpHの調整も行っており、腎臓は重要な役割を担っています。
(※1)電解質とはナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、リン(P)などの体のさまざまな働きや状態を保つのに必要な物質です。これらが高くなったり低くなったりすることで体内の働きをうまく維持できなくなり、症状としては元気や食欲の低下、さらには命に関わる多様な状態を引き起こします。
(※2)腎臓はCaの腸からの吸収や骨への沈着を促すカルシトリオール(活性型ビタミンD)や、骨髄で赤血球を作ることを促すエリスロポエチンなどを分泌する臓器として重要な働きをしています。
犬の慢性腎不全の症状
慢性腎不全の主な症状は以下のようなものがあります。
慢性腎不全の症状
- 尿量が増える
- 水をたくさん飲む
- 食欲が下がる
- 嘔吐
- 体重低下
- 脱水
- 便秘
など
この他には、重度の貧血がみられることがあり、これは腎臓で分泌され骨髄での赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンの低下により引き起こされていることがあります。
重度の腎不全では、尿毒症や乏尿または無尿の状態(尿がほとんどあるいは全く作られない状態)になることがあります。
尿毒症とは、本来腎臓から排泄される毒性物質が腎不全により排泄されず、血中から全身にまわっている状態です。症状としては、息がアンモニア臭い、口内の粘膜の壊死・潰瘍、けいれん、意識障害などが起こります。
これらの状態はかなり重度の腎不全のときに現れます。
犬の慢性腎不全の原因
慢性腎不全の主な原因は以下のようなものが挙げられますが、慢性腎不全は急性腎不全とは異なり、原因がはっきり分からないことがほとんどです。
慢性腎不全の主な原因
- 老化による腎機能低下
- 遺伝的要因
- 自己免疫疾患
- 他の疾患による腎障害※
- 悪性腫瘍(しゅよう)
など
老齢犬では腎機能が徐々に落ちている中で内臓の予備能力も低くなっているので、環境や食事、他の疾患により腎臓に負担がかかった場合、無理が利く範囲が小さく、腎障害の悪化が起こりやすくなっており注意が必要です。
他の疾患による腎障害(※)では、急性腎不全やそれが起こりうる急性膵炎、子宮蓄膿症、熱中症などの全身疾患で回復後に慢性腎不全に移行することもあります。また、糖尿病でも徐々に腎機能が落ちていき慢性腎不全になりやすいです。
さらに過剰な塩分やたんぱく質を含む偏った食事も腎臓に負担がかかり腎不全にかかりやすくなります。
慢性腎不全の検査は以下のようなものがあります。
慢性腎不全の検査
- 血液検査
- X線検査
- 超音波検査
- 尿検査
- 尿蛋白(たんぱく)クレアチニン比(外部機関に依頼)
など
腎障害の程度を測る上で重要な血液検査項目として、クレアチニン(Cre)がありますが、クレアチニン値が上昇するのは両方の腎臓の75%以上が障害を受けたときです。血液検査に影響しない初期の腎不全では尿比重が低くなる(薄い尿になる)ことがあります。
慢性腎不全は、他の重要な疾患でも見られる症状があるので、必要であれば他の検査も行われます。そして慢性腎不全の原因になった疾患が疑われれば、さらなる特殊な検査も行われることがあります。
犬の慢性腎不全の予防方法
人が食べるような食事や犬のおやつなど過剰な塩分やたんぱく質ばかりの食事は腎臓に負担がかかります。また、逆にたんぱく質が少なすぎても腎臓の回復や体の維持に必要なたんぱく質が不足してしまうので、総合栄養食などバランスの良い食事を与えましょう。食事以外にも体や心にとって快適な環境を整えることも大切です。
慢性腎不全は初期では症状が分かりにくく、具合が悪くなって動物病院に連れて行くとすでにある程度進行していることも多いです。慢性腎不全は、早期発見し、必要であれば経過観察や定期的な検査を行いながら早期治療につなげていくことが重要な疾患です。
中年齢から高齢になって来たら、健康診断で各種検査を行うことで、異常やその予兆がないかを早めに発見できる場合があります。
また、普段生活する中で異常を見つけたときは早めに動物病院を受診しましょう。
犬が慢性腎不全になってしまったら
慢性腎不全は、治療を行っていても病状が進行していき、その状態が戻ることはない疾患です。治療の目的は、慢性腎不全の進行を遅らせ、少しでも犬の快適に過ごせる時間を長くすることです。よって治療はずっと続けていくことになります。
慢性腎不全の具体的な治療は、腎不全のための療法食が主なものです。他には定期的な皮下点滴や腎臓の血管を広げる薬(ACE阻害薬)、療法食を食べている上でリン吸着剤を食事に混ぜて与えることもあります。
慢性腎不全の主な治療方法
- 腎不全用療法食
- 輸液療法(定期的な皮下点滴など)
- ACE阻害薬
- リン吸着剤
など
ACE阻害薬は高度に腎不全が進行すると使用は中止されます。また、犬によってはACE阻害薬を使用すると悪化することもあるので、投薬後1週間ほどで血液検査を行うこともあります。
慢性腎不全では、ずっとゆるやかに症状が進行するだけでなく、あるとき突然症状が急激に悪化する急性増悪(きゅうせいぞうあく)が起こることもあります。
急性増悪は急性腎不全の状態に近く、これが起こった時点で早期に集中的な治療を行えば腎臓が回復することも多いです。
しかし、急性増悪が起こる前の状態までに回復することはあっても、それ以上に慢性腎不全の状態がさらに回復することはありません。これは、慢性腎不全の現時点での状態は、腎機能の低下を体が補いきれなくなり、さらに治療により最大限に良い状態を保った結果であるからです。
ただ、この症状が急激に悪化した急性増悪なのか、徐々に悪化し慢性的に腎機能が下がった結果なのかにより、治療により回復の見込みがあるかどうかが変わってきます。
急性増悪の場合は早期の集中的な治療で回復することもありますが、徐々に悪化した結果であれば状態の程度によっては治療を行ってもかなり厳しいです。
どちらなのか判断するにはその時点だけの情報ではかなり難しいものですが、腎臓の血液検査を定期的に行っていれば、急性増悪が起こったタイミングによってはそれを判断できることがあります。
慢性腎不全ではこの急性増悪にうまく対処することも重要になります。
慢性腎不全の治療中に、急にここ2日ぐらいで食欲が落ちてきたなどという症状があればすぐに動物病院に連れて行きましょう。
また、早期から治療を開始した犬では、状態があまり変わらず治療の手ごたえが無いように感じられることもあるかもしれません。しかし、慢性腎不全の治療は続けることが大切なので、不安や相談したいことがあれば獣医師や病院のスタッフに相談し、異常や悪化があればすぐに動物病院を受診しましょう。