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角膜潰瘍(かくまくかいよう)とは、角膜に傷が付いた状態を指します。
潰瘍の深さ、広さ、進行速度により、治療法や経過も異なります。
角膜は眼球内に光を取り入れる中で最初に光が通る透明なドーム状の膜です。
異物などから眼球を守る役割もあります。
外側から順番に角膜上皮、基底膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮という各層があります。
下の図は角膜を模式図で表したものです。
各層の特徴や役割は以下のようなものが挙げられます。
各層の名前 | 役割 |
---|---|
角膜上皮 | 水分や薬物から目を守る壁となり、神経が密に走行しています。 また、損傷したときは、細胞が移動したり基底膜で新しく作られたりして、修復されます。 |
基底膜 | 新しい上皮細胞が作られる場所で、角膜の上皮層の傷を修復するのに、重要な役割を果たします。 |
角膜実質 | コラーゲンなどが規則正しく並ぶことで透明性を維持し、一定の水分を含みます。 |
デスメ膜 | これらの層の中では比較的強度が高く、角膜の強度や形を保っています。 |
角膜内皮 | 実質から角膜の内側へ水分を移動し、実質の透明性や角膜や眼球内の清浄な状態を保っています。 内皮は障害されると新しい内皮細胞は作られません。 |
角膜潰瘍の傷付き方やその深さはさまざまで、最重度では角膜穿孔(せんこう)といって、眼球に穴が開いた状態になります。
角膜に傷が付くと、目を痛がり、目を細めたり目を開けられなくなったりします。
片方だけ目を閉じ気味にして、涙っぽくなっていることも多いです。
また、そのときに結膜が腫れ、眼球が露出している部分全体をおおっていることもあります。
さらに、細菌感染が起こっていれば、めやにも出ます。
症状によっては結膜炎のように見える場合もあります。
・目を細める、目を開けられない
・涙が出る
・結膜が腫れる
・角膜の表面に白くなっている部分がある
・目を気にしてかく
など
動物の角膜は小さな傷が毎日付きます。
しかし、涙やまぶた、角膜上皮や基底膜などが関係する修復機構が働き、日々傷付いては治るというサイクルを繰り返しています。
その修復機構が、何らかの障害でうまく働かない、またはその限界を超えている場合、角膜潰瘍になります。
猫の角膜潰瘍の原因は以下のようなものが挙げられます。
・外傷
・長期間続く物理的刺激
-まつ毛の異常
-まぶたの異常(眼瞼内反症など)
-乾燥
-短頭種の顔の構造
・猫ヘルペスウイルス感染症
・角膜黒色壊死症(かくまくこくしょくえししょう)
・乾性角結膜炎(KCS)
※涙の量が減少する病気
・免疫介在性(免疫異常が関係している)
・化学物質(シャンプー液など)
など
エキゾチックなどの短頭種では、目の露出部が多く、角膜潰瘍になりやすいです。
角膜潰瘍のときの主な検査は以下のようなものが行われます。
・細隙灯検査(スリットランプ検査)
※細い光を目に当て、角膜や眼球の中を観察する検査
・フルオレセイン染色(角膜染色)
・細菌培養・感受性検査
・他の異常が疑われる場合はそれに準じた検査
※眼科以外の検査も含む
など
角膜潰瘍の原因のひとつである猫ヘルペスウイルスにはワクチンがあります。
そのため、ワクチン接種を行うことも症状軽減となります。
さらに、感染している猫との接触を避ける、多頭飼育の場合は、飼い主様も感染した猫に接触した後、手をきちんと消毒するなど、気を付けましょう。
また、完全室内飼育にして外傷などの機会を少なくすることも対策として行うことができます。
ただ、角膜潰瘍で重要なことは、早期発見、早期治療、そして治療をしっかり行い、こまめに通院することです。
目に関しておかしい様子が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
単純な表面だけの軽度の潰瘍であれば、治療後数日で治ります。
こまめに点眼を行い、それでも悪化する様子が見られたらすぐに動物病院を受診することが大切です。
またそうでなくても、状態の確認と治療方法の調整のために、診察日には連れて行きましょう。
目を気にしてかくことで傷をさらに悪化させないように、エリザベスカラーの装着も必要です。
ただ、実際付けてみてエリザベスカラーが小さければ(例:どこかに目をこすりつけることができる)、すぐに動物病院に相談し、サイズの変更を行ってください。
目の疾患は急に症状が進行することもあります。
状態をよく観察し、しっかり治療を行い、診察を受けることが重要になります。
治療を行うのが難しい状況などが出てきたら、電話でもいいので必ず獣医師やスタッフに相談しましょう。
・抗生剤点眼(または軟膏)
・角膜保護成分の点眼
・抗ウイルス薬(内服または点眼)
・抗生剤内服
・エリザベスカラー装着
など
また、潰瘍が中等度から重度であれば、外科的治療も必要になります。
・瞬膜被覆術(しゅんまくひふくじゅつ:瞬膜フラップ術)
・角膜有茎被弁術(かくまくゆうけいひべんじゅつ)
・角結膜転移術(かくけつまくてんいじゅつ)
など
●角膜潰瘍の修復を促進する
瞬膜被覆(しゅんまくひふく)術(瞬膜フラップ術)は、目頭側から眼球をおおうようにして出てくる瞬膜(第三眼瞼)を上まぶたに縫い付けます。
これをすることで、眼球表面の保護と涙液で常時潤わせることで修復を促進します。
数週間(1か月から長ければ2か月のことも)その状態で、その後抜糸をします。
抜糸後も必要であれば点眼を行います。
(その間定期的に診察あり)
眼内や眼球表面に感染がある場合は、感染を促進させ状態がさらに悪化する恐れがあるので行われません。
●角膜の欠損部を補う
角膜有茎被弁術(ゆうけいひべんじゅつ)や角結膜転移術(かくけつまくてんいじゅつ)は欠損した角膜部分を他の部分でおおう手術です。
これらの手術では、眼科専門の病院などに紹介されることもあります。
以下は治療費例のひとつです。比較的軽度の角膜潰瘍の例です。
治療期間:2週間
通院回数:3回
合計治療費用:21,434円
一通院当たりの治療費例:2,000~11,448円(診察料、細隙灯検査、フルオレセイン染色、内用薬、点眼薬)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
猫は猫ヘルペスウイルスの感染でも角膜潰瘍が起こることがあります。
猫風邪にかかっているときは、目にもおかしい様子がないかを観察しましょう。
そして、目の状態を日ごろからチェックすることも大切です(特に短頭種)。
目の疾患は症状が急激に進行することがあるので、異常がみられたら診察を受けましょう。