犬のてんかんとは
てんかんとは、脳に異常な電気信号の伝達が起き、それによりてんかん発作が繰り返される脳の病気です。
てんかん発作は、脳の神経ニューロンの電気信号が過剰になり、乱れが起きることで出る一時的な発作のことをいいます。
てんかんでは、てんかん発作が24時間以上の間隔をあけて少なくとも2回以上起こることが条件とされます。
てんかんは、大きく「特発性(とくはつせい)」と「症候性(しょうこうせい)」に分けられます。
- 特発性:脳の病変はなく、検査上では異常がみられないもの
- 症候性:脳腫瘍や脳炎、奇形など脳に明確な病変があるもの
また、症候性が疑われても検査などで原因が特定できない「おそらく症候性」のてんかんもあります。
犬のてんかんの症状
てんかん発作は、主に部分発作(焦点性発作とも呼ばれる)と全般発作に分けられます。
部分発作(焦点性発作)とは脳の一部のみが異常に興奮しているときに起きる発作で、全般発作とは脳の全体が異常に興奮している状態で起こる発作です。
部分発作から全般発作へと広がることもあります。
部分発作は口周りなど部分的な筋肉の収縮が現れたり、口をくちゃくちゃと噛むような様子がみられたりします。全般発作では全身にけいれんや硬直などが現れます。
部分発作の症状は以下のようなものが挙げられます。
部分発作(焦点性発作)の症状
- 部分的な筋収縮(口から眼周りなど)
- 一定リズムで筋肉が収縮する
- 口をくちゃくちゃ噛む
- ハエを追うように空中を噛む
- 一点を見つめる
- よだれを多量に垂らす
- 行動異常(不安や落ち着きのなさ、短時間の性格変化など)
など
全般発作の症状は以下の通りです。
全般発作の症状
- 全身性の筋硬直の後の、一定リズムでの筋収縮や遊泳運動
- 全身的な筋肉の硬直
- 一定リズムの筋収縮
- 脱力、筋肉に全く力が入っていない状態
※遊泳運動とは空中で足かきの動作をすること
など
発作は一時的で、通常数秒から数分で治まりますが、5~10分以上発作が継続することもあります。これを重積(じゅうせき)発作といい、長時間続けば大きな脳損傷からの後遺症や、最重度であれば命も落とす恐れもある重い発作です。
発作から回復した後には、ぼーっとした様子や徘徊、攻撃性、視覚の消失、後ろ足の麻痺などがみられることもあります。この発作後の様子は個々で異なり、水をたくさん飲む犬や食事をたくさん食べる犬もいます。
これは症状にもよりますが、回復後数分から長ければ数週間続く場合もあります。
犬のてんかんの原因
犬のてんかんは、「特発性」、「症候性」、「おそらく症候性」に分けられます。
●特発性てんかん
特発性てんかんには、
- 関連している遺伝子や遺伝的背景が特定されているもの
- 犬種における有病率などのデータ解析から遺伝性が疑わしいが具体的な特定はされていないもの
- 原因不明だが脳の構造上の異常はみあたらないもの
があります。
犬のてんかんのほとんどは特発性で、特発性てんかんの犬では1~5歳で初めての発作が起きていることが多いです。
●症候性てんかん
症候性てんかんは脳の構造に異常が出るような病気により、てんかん発作が起きるようになったものです。
症候性てんかんの主な原因は下のように
- 脳腫瘍
- 脳炎
- 外傷
- 脳血管障害
- 奇形
などが挙げられます。
●おそらく症候性てんかん
おそらく症候性では、症候性が疑われるがあらゆる検査上で異常が見つからないてんかんがここに分類されます。
例えば、外傷や交通事故などで頭に大きな衝撃や損傷を受けた後で治療に反応しにくい慢性的な発作を発症したが、検査上では異常が見つからないなどです。
また、発作は脳の疾患によるもの(てんかん発作)だけではなく、さまざまな原因があり、診察で明らかにしていく必要があります。
脳疾患ではない発作の原因としては下のようなものがあります。
- 低血糖
- 低Ca血症
- 肝不全(重度)
- 腎不全(重度)
- 高Na血症
- 心臓疾患
- 血液疾患
- 甲状腺機能低下症(重度)
- 中毒
など
発作が起こったときにはこれらの可能性も探る、または除外する必要があるため、さまざまな検査が行われます。
発作が起こったときの検査は以下のようなものが挙げられます。
発作が起こったときの検査
- 神経学的検査
- 血液検査
- X線検査
- 超音波検査
- 心電図
- 脳波測定(実施できる施設は数少ない)
- CT検査/ MRI検査
など
犬のてんかんの予防方法
てんかんになるのを予防する方法はありません。
てんかんの犬に関しては、できるだけ大きなストレスになるような状況は避けましょう。
実際、てんかん発作が起こったときの注意点は下のようなものがあります。
てんかん発作時の注意点(特に全般発作)
-
犬をゆする、大声(大きな音)を出す、強い光を当てるなどをしない
- さらなる刺激を与えることになる可能性があるため
-
口の周りなどを不用意に触らない
- 意識なく噛んでお互いけがをしてしまうことがあるため
- 犬は舌が詰まって呼級困難になるということは基本的にはないため
- 頭や体を家具や周りの物、落下物などにぶつけないように危ないものは取り除き、保護するような柔らかいタオルや布(毛布など)を周りに置く
- 階段などの高い場所や不安定な場所では落ちないように注意する
- 落ちて大きなけがをする可能性があるため
- 横断歩道や車道の真ん中など危険な場所で大きな発作が起こったら安全な場所に避難させる
- 安全な場所であれば移動させず発作が治まるのを待つ
部分発作(頭だけ震わせるなど)の場合、優しく声をかけたり背中を撫でたりして注意をそらすと発作が中断される例もあります。しかし、そうでない場合もあるので、無理はしないようにしましょう。
発作が起こった後の受診で伝えるといい内容は以下のようなものが挙げられます。
てんかん発作において診察時に伝える内容
- 発作が起こっていた長さ
- 何分間かなど具体的な時間を時計で計る
- 発作が起こる前に不安な様子や口をくちゃくちゃさせる、よだれを垂らす様子などがなかったか
- 発作時の様子
- スマートフォンや携帯電話でいいので、できれば動画を撮影するとよい
- 発作後の様子
- 何かきっかけになるようなイベントや状況が思い当たるか
- 発作を起こした犬の家族にてんかんの犬はいるか
- 過去、交通事故などの頭へのけが、または大きな病気をしたことはあるか
など
基本的にはてんかん発作が起こったら、その都度記録を付けておきましょう。
発作前、発作時、発作後の様子、そして発作前の異常な様子の間、発作の間、発作後にいつもの様子に戻るまで間のそれぞれの持続時間、発生時刻、日付などを記録すると役立ちます。
とはいえ、初めて犬が発作を起こしているのを目の当たりにしたら、そのように冷静ではいられないことがほとんどです。
飼い主様も驚きパニック状態になっている中でも、
- 犬の安全を確保すること
- 不用意に手を出して飼い主様がけがをしないこと
というお互いの安全を確保することだけは頭に留めておきましょう。
心配であれば動物病院に相談し、発作が治まって落ち着いたら受診してください。
発作が5分近く続くようならすぐに動物病院に連絡し、指示を仰ぎ、連れて行きましょう。これは、最初の発作が完全に治まりきらないうちに次の大きな発作が起きたときも、それをひと続きとみなして考えます。
犬がてんかんになってしまったら
脳炎や脳腫瘍などが原因の症候性てんかんではその治療を行います。
さらに、脳腫瘍や外傷などを原因とする発作では、抗てんかん薬を使用します。
以下は、特発性てんかんの治療について説明します。
症候性またはおそらく症候性てんかんにおける抗てんかん薬を使用する治療も内容は同じです。
特発性てんかんで治療を開始する絶対的な目安はありません。
てんかん発作の起こる頻度、重い発作(重積発作:じゅうせきほっさ)が起こるか、頻度や持続時間が悪化するか、飼い主様の生活スタイルと症状のバランスなどを考慮して治療を開始するか決定します。
抗てんかん薬でてんかんを治すことはできません。抗てんかん薬とは、あくまで発作を起こりにくくするためのものです。
発作により脳損傷が起こり、さらに発作が起こりやすく重くなるというサイクルを抑えることや命の危険や後遺症につながる重積発作をコントロールする目的で使用されます。
具体的には頻度を半減させ、持続時間や発作を軽くすることを目標とします。
犬の場合、内用薬ではゾニサミド、臭化カリウム、フェノバルビタールなどが主に使用され、追加薬剤としてレベチラセタムなどが挙げられます。他にもさまざまな薬があり、状況に合わせて使用されます。基本的には1種類の薬を使用しますが、必要であれば多剤併用も行います。
薬剤の内服によって薬の血中濃度が治療に適切な範囲内になっているかを、血液検査で測定し確認します。値によって飲む量を調整することもあります。
薬の血中濃度の測定は
- 最初の内服量を治療に適正な量に調整するため
- 症状が良くならない、悪化したとき
- 薬剤の副作用が出てきたとき
- 多剤併用しているとき、一方が他の薬の働きを抑えることがあり、その確認のため
などのときに行われます。
抗てんかん薬の中では、フェノバルビタールは肝臓に副作用が出ることがあるので、定期的に血液検査で肝臓に関する値もチェックします。
抗てんかん薬はほとんどの犬で生涯続ける必要があります。自己判断で薬をやめてしまうと悪化する恐れもあるので、続けられるのであればしっかり治療を行い、続けるのが難しい事情などあれば、動物病院に相談してみましょう。そのときは事情に合わせて検査や薬を考慮し、犬と飼い主様にとって一番いい選択肢を具体的に獣医師と探っていきましょう。
重積発作など緊急的に発作を抑える必要があるときは、血管に薬剤を入れる管を確保し、血管内に注射薬(抗てんかん薬)を投与します。
また、てんかんが重度の場合、そのような薬を複数回使用しても重積発作がおさまらないこともあります。そのときは継続的にペントバルビタールなどを持続的に点滴することで軽い麻酔をかけたような状態にして、12~24時間発作を抑えます。そして、量を減らし少しずつ覚醒させていき、また発作が起こらないかをみていきます。
特発性てんかんは治ることのない病気ではありますが、薬で適切にコントロールできれば生活の質を確保することができます。何かあれば獣医師やスタッフと相談しながら、しっかりと治療を続けていきましょう。