炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患(IBD)
犬の炎症性腸疾患(IBD)とは
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)とは、免疫の異常が関わっていると考えられている原因不明の慢性腸炎です。
特定できる他の疾患がなく、かつ顕微鏡で、腸の粘膜の組織に白血球など(炎症細胞)が集まっている像がみられることを特徴としています。
炎症性腸疾患は、IBD(アイビーディー)と呼ばれることが多いです。
2~3週間以上の下痢や嘔吐などの消化器症状が現れ、一般的な腸炎の治療では改善しません。
人の炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病と潰瘍性大腸炎を指しますが、犬の炎症性腸疾患(IBD)は人とは病変の特徴も異なり、はっきりとした定義はありません。
炎症性腸疾患(IBD)では、「リンパ球形質細胞性腸炎」が最も多く、その他に「好酸球性腸炎」、「肉芽腫性腸炎」、「組織球性潰瘍性大腸炎」などが挙げられます。
炎症性腸疾患(IBD)は本来、徹底的な除外診断(他の病気の可能性を否定すること)で、各種検査や症状、経過などを合わせ、総合的に判断されます。
ただ、完全な除外診断や低悪性度のリンパ腫(腸)との判別が難しい場合もあり、正確な診断が難しい疾患とされます。
犬の炎症性腸疾患(IBD)の症状
炎症性腸疾患(IBD)の症状は、以下のようなものがあります。
<炎症性腸疾患(IBD)の症状>
軟便、下痢 嘔吐 体重減少 元気低下 食欲不振 など
上記の消化器症状が慢性的に(2~3週間以上)続き、通常の腸炎の治療では改善がみられない、または一時的です。
消化器症状は、持続的に続く例だけでなく、時間を置いて繰り返す例もみられます。
犬の炎症性腸疾患(IBD)の原因
炎症性腸疾患(IBD)には、免疫の異常が関わっていると考えられていますが、病気の詳しい原因や仕組みは分かっていません。
炎症性腸疾患(IBD)は、厳密には、慢性的に下痢になる疾患の可能性を全て除外した上で、腸に炎症がみられる原因不明の腸炎です。
2~3週間以上下痢・嘔吐が続く状態には、さまざまな原因が考えられます。
下痢や嘔吐以外にも、元気や食欲などの全身の状態や、年齢、経過、他に現れている症状などにより、疑わしい病気や重症度が異なってきます。
<慢性下痢・嘔吐の原因>
消化管内寄生虫
異物
腸管運動停滞
腸閉塞
食道疾患
アジソン病(副腎皮質機能低下症)
膵外分泌不全
膵炎※
腸リンパ管拡張症※
腫瘍
リンパ腫
腺癌
など
食事反応性腸症
食物アレルギー(消化管型)
食物不耐性
抗菌薬反応性腸症
炎症性腸疾患(IBD)
など
※膵炎や腸リンパ管拡張症は、炎症性腸疾患(IBD)と併発することもあります。
食事反応性腸症とは、食物アレルギーなど食物に反応する下痢で、抗菌薬反応性腸症とは、他の病気がなく、抗菌薬の投与の間、下痢が治まる腸症のことです。
これらの腸症の可能性を、厳密に除外することが難しい場合も多いです。
炎症性腸疾患(IBD)で行われる検査は、以下のようなものが挙げられます。
<炎症性腸疾患(IBD)の検査>
触診
直腸検査
糞便検査(特殊検査含む)
血液検査
一般血液検査
ACTH刺激試験
犬膵特異的リパーゼ(c-PLI)測定
c-TLI測定
食物アレルギーの検査
(IgE検査、リンパ球反応検査)
など
X線検査(造影検査も含む)
超音波検査
抗菌薬投与や食事変更の試験的治療
内視鏡検査
試験開腹による生検
病理組織検査(特殊染色含む)
など
慢性腸症では、食物アレルギーなど食物に反応して腸に炎症が起こっている場合も、中にはあります。
そのため、他の疾患を除外すると同時に、食事を変えて症状が改善しないか観察します(食事反応性腸症の除外)。
このとき、食物アレルギーの検査を行うと、その時点でアレルギー反応が出ているであろう食物を挙げることができ、食事療法の補助や近道になると考えられています。
経過や検査結果などにより、日を改めて複数回検査を行うことや、上記以外の検査が必要になることがあります。
深刻な状態でなければ、まず急性腸炎に対する治療を行い、症状や治療への反応などにより、段階的に検査を進めていくことが一般的です。
ただ、状態に合わせて、その都度必要な検査が行われます。
犬の炎症性腸疾患(IBD)の予防方法
炎症性腸疾患(IBD)を予防する方法はありません。
なかなか治らない軟便や下痢などの消化器症状がある場合は、放っておかずに早めに動物病院を受診しましょう。
犬が炎症性腸疾患(IBD)になってしまったら
炎症性腸疾患(IBD)の治療は、 ステロイド剤などの免疫抑制剤 腸への抗生物質 食事療法 などが挙げられます。
他にも必要であれば、症状をやわらげる、あるいは全身の状態を改善する治療が行われます。
炎症性腸疾患(IBD)では、免疫の異常が関与していると考えられており、食事反応性腸症を含め、他の疾患を除外できた場合は、ステロイド剤などの免疫抑制剤が治療の中心となります。
その上で、食事で使用されているたんぱく源、脂肪量、繊維量などを、その犬に合ったものに変える食事療法が、補助的治療として行われます。
腸内環境を整える目的で、整腸剤などのプロバイオティクスを投与することも否定されていません。
炎症性腸疾患(IBD)とされたほとんどの犬で、免疫抑制剤の投与は生涯にわたります。
そのため、免疫抑制剤の必要最低量を探り、長期服用では副作用に注意していきます。
炎症性腸疾患(IBD)は、リンパ腫に進行することもあるといわれています。
ステロイド剤の治療を行っても、治療の反応が悪いときは、低悪性度のリンパ腫(腸)の可能性も常に考える必要があり、判断が非常に難しい場合もあります。
自然に引いていかない、一般的な下痢の治療ではなかなか治らないような下痢または嘔吐があれば、早めに動物病院に連れて行くことが大切です。
そして、獣医師と相談しながら、必要な検査や治療を進めていきましょう。