犬の胃潰瘍とは
胃潰瘍(いかいよう)とは、胃壁を深く損傷し、ただれたりえぐれたりしている状態のことです。
胃潰瘍には、ゆるやかに経過する慢性と突然発症し急激に進行する急性があり、症状も軽度なものから命を脅かすものまでさまざまです。
犬の胃潰瘍の症状
胃潰瘍は潰瘍の部分から出血するので、吐血や真っ黒な下痢がみられます。消化されて黒くなった血液が下痢に混ざり色が黒くなります。胃潰瘍が進行すると多量に出血し貧血になることがあります。
胃潰瘍の症状
- 嘔吐
- 吐物に血や黒いものが混じる
- 吐血
- 真っ黒な下痢(メレナ)
- 貧血
- 元気がない
- 食欲不振
- 脱水
など
犬の胃潰瘍の原因
胃潰瘍は、胃への血流が少なくなったり、胃酸の分泌が過剰になったりして胃壁が損傷され起こります。腫瘍がもろくなり自然に潰瘍が形成されることもあります。
犬の胃潰瘍の原因は以下のようなものが挙げられます。
胃潰瘍の原因
- 尿毒症(腎不全)
- 肝不全
- 胃の腫瘍
- 薬剤
- ステロイド
- 非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs、消炎鎮痛剤)
- または上記2つの併用
- ショック
- DIC※2
- 肥満細胞症※3
- 胃炎
- 膵炎
- アジソン病(副腎皮質機能低下症)
- 敗血症※4
- ストレス
など
※1 ガストリノーマとは膵臓の腫瘍のひとつで、ガストリンという物質を分泌しますが、このガストリンが胃を酸性化させるので胃潰瘍が起こりやすくなります。
※2 播種(はしゅ)性血管内凝固症候群といい、小さな血栓が体中の血管内ででき小さな血管に詰まったり、出血しやすくなったりする体の末期的状態
※3 肥満細胞症では、他の部位にできた肥満細胞腫がヒスタミンを放出し、それが胃酸の分泌を促すことで胃潰瘍になりやすくなります。
※4 血中で細菌が増殖し、多臓器不全を起こした状態
これらの中で胃潰瘍の原因としてよくみられるものは、腎不全や肝不全、腫瘍、胃潰瘍を誘発しやすい薬剤、ショック、DICなどです。
胃潰瘍の検査は次のようなものがあります。
胃潰瘍の検査
- 血液検査
- X線検査
- 超音波検査
- 内視鏡検査
など
胃潰瘍の原因は、腫瘍や内臓の内科的な疾患などさまざまです。経過や症状、検査結果によってさらなる検査が必要になる場合があり、その都度他の検査も行われます。
犬の胃潰瘍の予防方法
胃潰瘍のはっきりとした予防方法はありません。
吐物を病院に持って行けない場合は、写真を撮影し、どのような吐物が混ざっていたか、吐血であればどの程度出血したのかなどを診察の際に分かるようにしておくと、重症度の判断や診察の助けになります。
犬の胃潰瘍になってしまったら
腫瘍など他の病気が原因となっているときは、その病気の治療を行います。それと並行して胃潰瘍の症状に対する治療(対症療法)を行うこともあります。
胃潰瘍の治療は以下のようなものが挙げられます。
胃潰瘍の治療
- 制酸剤
- H2ブロッカー
- ファモチジン
- ラニチジン
- プロトンポンプ阻害剤
- オメプラゾール
- ランソプラゾール
- H2ブロッカー
- 消化管粘膜保護剤
- プロスタグランジンE製剤
- ミソプロストール
- 輸液療法
など
胃潰瘍の対症療法は胃酸を抑えることが先決となります。
H2ブロッカーよりもプロトンポンプ阻害剤の作用は強く、症状の程度が中等度や重度の際に使われることもよくあります。
プロスタグランジンE製剤(ミソプロストール)は、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)の副作用である消化管潰瘍の予防として使用されることが多いです。
これらの投薬は治癒後も継続することがあります。
消化管粘膜保護剤は胃の粘膜表面を覆い保護するものですが、薬の吸収を妨げたり、胃に内容物があると効果が薄まったりするので、投薬時間(食前または食後2時間など)の指示に従いましょう。
また、胃潰瘍が重度になると口からの摂取が難しくなるので、脱水の改善や電解質※の補正を目的に輸液療法が行われます。※電解質とは、ナトリウム(Na)やカリウム(K)といった細胞や体の働きに不可欠な物質
胃潰瘍が進行し胃に穴が開くことがあります。それを防ぐことができ、胃潰瘍となった原因を制御できれば、経過はおおむね良好です。
なんとなく元気がなかったり、嘔吐などの消化器症状がみられたりする場合は早めに動物病院に連れて行きましょう。