犬の慢性肝炎とは
慢性肝炎とは長期間続く比較的症状がゆるやかな経過をたどる肝臓の炎症を指します。
慢性肝炎が続くと、肝硬変や肝性脳症になることがあります。
肝臓の働きは多岐にわたり、
- ① たんぱく質の生産
- 血液凝固に関わる因子の産生
- 血液の濃さを保つアルブミン(たんぱく質の一種)の産生
※アルブミンが低下すると、自然に腹水などが溜まるなど危険な状態になります。 - コレステロールの産生
など
- ② 胆汁酸などの分泌
- ③ 解毒
- ④ 糖の貯蔵、貯蔵している糖を利用可能な状態にする
- ⑤ 脂質やビタミンAなどの貯蔵
など、これら以外にも多くの働きがあります。
犬の慢性肝炎の症状
慢性肝炎の症状はまず元気や食欲の低下などが見られ、一見加齢による症状のようにみえてしまうことがあります。
重度や末期の肝炎では、腹水や黄疸(おうだん)などが症状として現れます。
他には、肝臓は血液の凝固に関わる因子を作っているので、肝臓の機能が落ちると出血しやすい状態になることがあります。
慢性肝炎が進行すると肝硬変になることがあります。
肝硬変とは肝臓の細胞が繰り返し大量に壊れることで、肝臓が小さく硬くなった状態です。
肝硬変になると、肝臓の機能が著しく低下するとともに、肝臓に流れ込む大きな静脈である門脈(もんみゃく)が、硬くなった肝臓に血液を送ろうとするので、門脈にかかる圧力が上がります(門脈圧亢進)。これにより体に浮腫が出たり腹水が溜まったりします。
さらに進行すると、硬くなった肝臓に血液が送れなくなり、肝臓で解毒されない血液が脳や体にまわる肝性脳症に陥ります。肝性脳症はさまざまな神経症状が現れる重篤かつ緊急的な状態です。
犬の慢性肝炎の原因
ほとんどの慢性肝炎は、各種検査では原因が特定できない特発性(とくはつせい)です。
原因が特定できるもので最も多いのは肝臓への銅蓄積による慢性肝炎です。
銅の蓄積による肝炎は、遺伝が関わり同じ血縁関係にある犬が発症しやすい家族性があります。肝臓への銅蓄積がみられやすい犬種は以下のようなものがあります。この中でベドリントン・テリアのみが遺伝的な原因が特定されています。
肝臓への銅蓄積がみられやすい犬種
- ベドリントン・テリア
- ドーベルマン・ピンシャー
- ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
- ダルメシアン
- ラブラドール・レトリバー
など
慢性肝炎の検査は以下のようなものが挙げられます。
慢性肝炎の検査
- 触診
※体に触って痛みや異常がないかを調べる - 血液検査
- X線検査
- 超音波検査
- 血液凝固系検査
- 病理組織検査
※肝臓の一部を採取後、標本を作製し顕微鏡下で状態を観察する
など
肝臓の機能が落ちていると、低血糖や低アルブミン血症、低コレステロール血症、高アンモニア血症などがみられることがあります。
さらに肝臓の機能を調べる特殊な血液検査として、
- 食前食後の総胆汁酸測定(TBA)(外部機関へ依頼)
- 食前食後のアンモニア(NH3)測定
- アミノ酸分析(外部機関へ依頼)
があります。
犬の慢性肝炎の予防方法
犬アデノウイルス1型感染症は、ウイルスに対するワクチンがあるので、ワクチン接種をすることにより予防することができます。
肝臓に影響を与えることのあるフェノバルビタールは抗けいれん薬で、てんかんの治療などで使用される薬です。てんかんでは薬を継続して服用する必要があるので、フェノバルビタールを使う場合、肝障害が起こっていないか定期的に血液検査をする必要があります。肝臓に影響が少ないとされる抗けいれん薬を使用することもできます。
家族性の肝臓への銅蓄積がみられる犬種では、健康診断として定期的な血液検査を行うと早期に異常が発見できる可能性が高くなります。
おかしい様子が見られたら早めに動物病院で診察を受けることも大切です。
犬が慢性肝炎になってしまったら
慢性肝炎は検査を行っても原因までは特定できない特発性が多いですが、銅蓄積や感染症など原因が特定できた場合はそれぞれの原因に対しての治療が行われます。
原因に対する治療
- 銅蓄積
- 銅キレート剤(銅を肝臓からある程度除去する)
- 亜鉛塩(腸での銅の吸収を抑える)
- ステロイド
- 感染症
- 原因である感染症に対する治療
- 薬物誘発性
- 原因となる薬剤の投与中止
慢性肝炎では肝臓の酸化を抑えたり、たんぱく質を良質なものにしたりする必要があります。検査(アミノ酸分析)で分かったたんぱく質の状態からBCAA製剤(アミノ酸製剤)の追加などを検討します。
さらに、慢性肝炎では消化器障害も現れるので、その症状をやわらげる治療も行われます。
対症療法
- SAMe(サミー:抗酸化剤)
- ウルソデスオキシコール酸
- BCAA製剤(アミノ酸)
- 療法食(たんぱく制限、低濃度の銅)
- 輸液療法
- 制吐剤
- 制酸剤(胃酸を抑える薬)
など
慢性肝炎ではステロイドが使用されることもあります。
また、感染がないことが分かっており、病理組織検査で組織に免疫の細胞が多く集まっている様子がみられ、免疫異常による肝炎と疑われる場合もステロイドや他の免疫抑制剤が使用されます。
さらに、最終的に肝性脳症を発症した場合は、肝性脳症に対する集中的な治療が行われます。
慢性肝炎の初期は症状が分かりにくいことも多いので、健康診断など定期的な血液検査などで早期発見できることもあります。
おかしい様子が見られたら早めに動物病院に連れて行きましょう。