角膜潰瘍
角膜潰瘍
犬の角膜潰瘍とは
角膜とは、眼球内への光の通り道の最も外側にある、血管の走行していない透明な膜です。
その角膜に何らかの原因で傷が付いたことを角膜潰瘍といいます。
犬の角膜は1㎜の厚さで、血管は通っていません。
角膜は、外側から角膜上皮、基底膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮で構成されています。
角膜の機能は、光を通して集め網膜へと光を到達させることで、その働きに角膜の透明性が大きく関係しています。
角膜潰瘍にはさまざまな種類があり、病状が進むと角膜に穴が開く角膜穿孔(せんこう)が起こります。
犬の角膜潰瘍の症状
角膜潰瘍の症状は痛がって目を閉じ気味にする、涙を流すなどが挙げられます。
角膜上皮と角膜実質の間には神経が緻密に走っているので、角膜に穴が開いたときより、ごく表面の傷(びらん)の方が痛みを感じるといわれることもあります。
他には、結膜が腫れて膨れ(結膜浮腫)、眼球全体をおおってしまい、角膜潰瘍の傷が隠れて確認できないときもあります。
犬の行動としては、自分で気にして目をかいてしまい、傷や炎症を悪化させることもしばしばみられます。
また、中には目の痛みから目の周りを触られるのを嫌がり、触ろうとすると怒る犬もいます。
<角膜潰瘍の症状>
・目を閉じ気味にする
・涙が出る
・瞬膜が出る(目頭方向から膜が出てくる)
・めやにが出る
・白目が赤い
・結膜が腫れる
・目を気にしてかく
・目の表面(角膜)に白く斑点が見える
・目の表面(角膜)全体が白っぽく見える(角膜浮腫)
など
犬の角膜潰瘍の原因
角膜潰瘍の原因として、
・擦過傷などの外傷
・まぶたの逆さまつ毛や内側に巻き込んだまぶたや毛などによる慢性的な刺激
・眼球が出ている部分が大きいなどしてまぶたが閉まりきらない犬や麻酔後にみられる乾燥によるもの
他には、
・異物や細菌感染、シャンプー液などの化学物質、自己の免疫の異常で起こる免疫介在性
などが挙げられます。
さらにはSCCEDs(スケッズ)といって、ボクサー潰瘍、無痛性潰瘍(無痛性とありますがかなり痛みがあります)ともいわれる、角膜上皮と角膜実質の間の細胞の接着が弱いことによる再発性、難治性の角膜潰瘍になることもあります。これはボクサーやコーギーに多いといわれています。
<角膜潰瘍の主な原因>
・外傷
・物理的に繰り返される刺激
・乾燥
・異物
・細菌感染
・化学物質
・免疫介在性
など
以下は角膜潰瘍にかかりやすい犬です。
<角膜潰瘍になりやすい犬>
・短頭種(まぶたが閉まりきらない犬が多い)
・涙の量が少ない犬(乾性角結膜炎など)
・涙の膜に異常がある犬(涙膜異常)
など
角膜潰瘍の主な検査は、以下のようなものが挙げられます。
<角膜潰瘍の主な検査>
・細隙灯検査(スリットランプ検査)
※細い光を目に当て、角膜や眼球の中を観察する検査
・フルオレセイン染色(角膜染色)
・細菌培養・感受性検査
・他の異常が疑われる場合はそれに準じた検査
※眼科以外の検査も含む
など
犬の角膜潰瘍の予防方法
角膜に傷が付く恐れのある毛やまつ毛は、定期的にカットしたり抜くことで、気付かないうちにできる角膜潰瘍の対策になります。
また、シャンプー時にシャンプー液が目に入ってしまって角膜潰瘍を引き起こすこともあります。
シャンプー液が目に入らないように気を付けましょう。
体の抵抗力が落ちたり、大きなストレスがかかったりしたときも角膜潰瘍を発症しやすくなります。
目の周りの構造や疾患により、目が乾燥しやすい犬は特に、目にも異常がないか気を付けることも大切です。
犬が角膜潰瘍になってしまったら
角膜潰瘍の進行具合によって治療法は異なります。
単純な角膜潰瘍
単純な浅い部分のみの角膜潰瘍であれば、治療を行えば3日から1週間で良くなっていきます。
ライフスタイルと点眼可能な回数を獣医師と相談しながら、しっかりと治療していきましょう。
<角膜潰瘍の主な内科的治療>
治療法 | 目的 |
---|---|
抗生剤の点眼薬 | 頻繁な投与を行い、細菌の増殖を抑える |
角膜保護成分の入った点眼薬 | 頻繁な投与を行い、角膜を保護し修復を助ける |
エリザベスカラーの装着 | 犬が目をかき傷が悪化することを防ぐ |
複雑な角膜潰瘍
上記の治療に加え、根本的な原因(物理的な刺激や目の乾燥など)がある場合は、それに対する処置や治療が行われます。
潰瘍に対する内科的治療法として、他には、血清点眼、アセチルシステイン、抗生剤の内服なども用いられることがあります。
<さらなる内科的治療>
治療法 | 目的 |
---|---|
血清点眼 | 犬の血清を点眼し潰瘍部に修復のための栄養を与える |
アセチルシステイン(点眼) | 角膜実質のコラーゲン線維を溶かす酵素の働きを抑える |
抗生剤の内服 | 全身への感染を防ぐ |
また、難治性の角膜潰瘍に対しては、内科的治療だけでなく外科的治療も行われます。
難治性や深い角膜潰瘍で行われる手術では、潰瘍部を周りの結膜や角膜で覆う方法などが挙げられます。
治療法は以下のもの以外にもさまざまあり、目の状態や必要な手術によっては眼科専門医に紹介されることもあります。
<主な外科的治療>
治療法 | 目的 |
---|---|
デブリードマン | 点眼麻酔(麻酔薬の入った点眼薬をさす)をした状態で、角膜の修復を妨げているめくれた角膜を除去する |
格子状(こうしじょう)角膜切開術 | 同じく点眼麻酔下で、角膜の表面に格子状にごく浅く傷をつける |
ソフトコンタクトレンズ装着 | デブリードマンや格子状切開などの外科的処置と並行して使用されることもある |
瞬膜被覆術(瞬膜フラップ術) | 目頭側にある目を覆う膜である瞬膜をまぶたに固定し、潰瘍部を外的刺激や乾燥から守る。さらに、涙を常に角膜の表面にいきわたるので、潰瘍部の修復を促進する(全身麻酔下)。 |
有茎結膜皮弁術(結膜フラップ術) | 結膜で潰瘍部を覆い結膜の血管から栄養を供給することで修復を促進する |
角結膜転移術 | 近くの健康な角膜で潰瘍部を覆う |
緊急性の高い状態
角膜潰瘍には、細菌感染により角膜が溶け急激に角膜穿孔まで進むことのある緊急性の高いものもあります。
その場合は1~2時間ごとの点眼と細かな通院(飼い主様が頻繁な点眼が困難なら入院も)が必要になります。
最終的に角膜の状態が安定してくれば必要に応じて外科的治療も行われます。
また、角膜穿孔(角膜に穴が開くこと)まで進んでしまった場合、目の状態によっては眼球摘出も治療の選択肢に上がってきます。
眼内感染などがある場合、全身に感染が広がる危険性があるからです。
獣医師からよく説明を受け治療方針を相談していきましょう。
以下は、軽症の治療費例と難治性慢性の治療費例を挙げています。
まずは、早期発見、治療をした軽症例です。
軽度の単純な角膜潰瘍だったため、早期治療により短期間で治っています。
治療費例①(軽症例)
治療期間:1週間
通院回数:3回
合計治療費用:11,180円
一通院当たりの治療費例:1,100~8,000円(診察料、フルオレセイン染色、眼科検査、内用薬、点眼薬)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
次は慢性の角膜潰瘍の治療費例です。
まぶたの裏側にまつ毛が生えており、慢性経過をたどった難治性の例です。
数週間たっても治らなかったため、点眼麻酔下で角膜表面の不要な細胞を取り除き修復を促す処置(デブリードマン)が複数回行われました。
しかし、それでも完治しなかったため、全身麻酔下で、まぶたの裏側のまつ毛を取り除き、角膜の表面に傷をつけ角膜の修復を促すとともに、ソフトコンタクトレンズを装着し角膜の保護を図りました。
これにより、角膜潰瘍は完治しています。
治療費例②(慢性例)
治療期間:3カ月
通院回数:11回、手術回数1回
合計治療費用:約16万円
一通院当たりの治療費例:3,500~15,000円(診察料、眼検査、フルオレセイン染色、デブリードマン、内用薬、点眼薬、エリザベスカラー)
手術費用:約8万円(異所性睫毛切除術、デブリードマン、格子状角膜切開術、コンタクトレンズ、他に術前検査や全身麻酔など必要な処置、点眼等の処方含む)
※2016年1月~2017年12月末までの実際にあった請求事例になります。事例の特定を避けるため、おおまかな治療費を掲載しています。
※こちらに記載してある診療費は、あくまでも例を記載したものになります。実際の診療内容・治療費等は、症状や動物病院によって異なりますので、ご留意ください。
これら以外にも症例によってはさらに専門的な手術が必要になる場合もあり、そのときは費用も治療費例以上に高くなることもあります。
このように、ひとくちに角膜潰瘍といってもさまざまな経過をたどり、治療をきちんと行っている場合も、数日で急に状態が進行することもあるような疾患です。
角膜潰瘍は放っておくと犬の生活の質を著しく落とすだけでなく、目に穴が開いてしまうと目を失ったり命が危険な状態になったりする可能性もあります。
早期発見、早期治療を心がけ、エリザベスカラーの適切な装着と点眼などをきちんと行うことが大切になります。