犬の巨大食道症とは
巨大食道症とは、食道が拡張し、食べ物などを胃に送る運動性も、著しく低下している状態のことです。
食道が拡張して、入ってきたものを胃に送らなくなるので、食べたものを吐き出します。
犬の巨大食道症の症状
巨大食道症では、固形物や液体(水や唾液など)が食道にたまるので、それを吐き出します。
口や喉、食道から吐き出すことを吐出(としゅつ)といい、胃以降まで送られたものを吐き出すことを嘔吐といいます。
吐出の最も多い原因として、巨大食道症が挙げられます。
吐出と嘔吐は、判別しにくいことも多いですが、吐いたときの状況から区別できることもあります。
吐出と嘔吐を区別するとき、参考とする項目に、
- 食後吐くまでの時間
- 吐物の観察、検査(pHなど)※
※吐物を持参できない場合は、写真を撮影し診察で見せましょう - 吐く前の様子(よだれを多量に流す、口をくちゃくちゃする様子など)
- 吐くときに、横隔膜(肋骨など胸部)が上下し、腹部がへこむ様子があったか
などが挙げられます。
犬が吐くときに、これらの様子がないか意識して確認しましょう。
ただ、これらはあくまで指標に過ぎず、前述の通り、吐出と嘔吐を判別できないことが多いです。
巨大食道症の症状は以下のようなものがあります。
巨大食道症の症状
- 吐出
- 脱水
- 体重減少
など
巨大食道症は吐出が頻発するので、誤って肺の方に吐物がいき、誤嚥(ごえん)性肺炎※がよく起こります。
※誤嚥性肺炎は、吸引性肺炎とも呼ばれる
誤嚥性肺炎は急変し、突然死を招くこともあります。
巨大食道症では、誤嚥性肺炎で命を落とすことが多いです。
さらに、巨大食道症の原因となる疾患がある場合、その疾患の他の症状も加わります。
犬の巨大食道症の原因
巨大食道症は、
- 生まれつきである先天性のもの
- 生まれた後で何らかの疾患にかかり、巨大食道症を発症した後天性のもの
に分けられます。
巨大食道症は、原因が特定できない特発性(とくはつせい)巨大食道症も多くみられます。
先天性巨大食道症は、明確な原因が特定されておらず、特発性とされます。
特定の血縁関係に多く発症し、先天性巨大食道症が疑われた犬種として、
- アイリッシュ・セター
- ジャーマン・シェパード
- ラブラドール・レトリーバー
- ミニチュア・シュナウザー
などが報告されています。
また、後天性巨大食道症でも、原因疾患が特定できないこともよくあり、その場合は特発性に分類されます。
原因となっている疾患が発見されれば、根本的な治療を行うことができます。
巨大食道症の原因となる疾患は以下のようなものが挙げられます。
巨大食道症の分類と原因
- 先天性
- 特発性
- 後天性
- 重症筋無力症
- アジソン病(副腎皮質機能低下症)
- 多発性筋炎
- 食道炎(重度)
- 甲状腺機能低下症(まれ)
- 全身性紅斑性狼瘡※(ぜんしんせいこうはんせいろうそう)
- 鉛中毒
- 自律神経障害
- 特発性
など
※全身性紅斑性狼瘡とは、まれな自己免疫疾患
後天性で原因疾患が分かっている巨大食道症の中では、重症筋無力症が最も多い原因として見られます。
巨大食道症の検査は以下のようなものが行われます。
巨大食道症の検査
- 血液検査
- X線検査(造影検査を含む)
- 超音波検査
- 内視鏡検査
など
後天性巨大食道症の場合は、原因となる疾患を探すことが必須となります。
そのため、ホルモン検査など、疾患を特定するための各種特殊血液検査や、筋電図、生検※など、必要な他の検査も行われます。
※生検とは、麻酔下で組織を採取し、標本にして顕微鏡で観察する検査
犬の巨大食道症の予防方法
巨大食道症の明確な予防方法は特にありません。
ただ、巨大食道症は鉛中毒から誘発されることがあります。
鉛はペンキなどに含まれており、それをなめて中毒になったりします。
身の回りにある犬に危険なものは、手の届かないところにしっかりと管理しましょう。
そして、早期発見・早期治療を心がけましょう。
犬が巨大食道症になってしまったら
巨大食道症では、下のように、症状を和らげる対症療法が行われます。
- 少量の食事を頻繁に与える
- 立つような姿勢で食べさせ、食後その姿勢を保持する(テーブルフィーディング)
- その犬に最適な食事の形状(液状、缶詰、ドライフード)を探す
など
巨大食道症は、誤嚥性肺炎になりやすく、その場合、抗生剤などが使用されます。
巨大食道症では、誤嚥性肺炎をいかに制御できるかが大きな鍵となります。
誤嚥性肺炎は、急速に進行して突然死を招くこともあります。
定期的な診察(X線検査など)で状態を把握することが大切です。
そして、巨大食道症の原因となる疾患が分かっている場合は、その治療を行います。
巨大食道症により、栄養失調になっている犬や、誤嚥性肺炎を繰り返す犬では、胃瘻(いろう)チューブの設置(腹壁を通して、胃に食物や薬、水分を直接入れるための管を通す)も検討されます。
ただ、胃瘻チューブを設置しても、唾液などを飲み込んだり、消化物が胃から逆流したりして、誤嚥性肺炎になることもあります。
また、胃瘻チューブはこまめな管理が欠かせません。
そして、何か症状が現れたときはもちろん、それ以外に定期的な診察で状態の確認を行う必要があります。
後天性の特発性巨大食道症の経過は厳しいといわれています。
繰り返す誤嚥性肺炎などが原因となります。
重症筋無力症が原因の後天性巨大食道症は、重症筋無力症の治療や巨大食道症に対する対症療法により、約半数で良好な結果が得られたという報告があります。
巨大食道症では、吐出が症状としてよく見られ、早期発見により、原因疾患を見つけたり、治療や対処を行ったりすることができます。
おかしい様子が見られたら、動物病院に連れて行きましょう。