犬の線維肉腫とは
線維肉腫とは、主に線維芽細胞のがんです。線維芽細胞とは結合組織を構成する細胞で、コラーゲン線維や弾性線維などの産生を行います。
線維肉腫は口腔を含む顔面、四肢、乳腺、体幹などで発生します。
老齢でなりやすいですが、全体的には犬種や性別はあまり関係ないといわれています。
また、線維肉腫は軟部組織肉腫のひとつでもあります。軟部組織肉腫とは、結合組織のがん(悪性腫瘍)の総称で、がんの広がり方や転移の傾向などが類似しているという特徴を持ちます。
病理組織検査でも軟部組織肉腫のそれぞれの腫瘍の種類を特定することは難しい場合があり、軟部組織肉腫という大きなくくりで分類することもあります。
犬の線維肉腫の症状
線維肉腫は、体にできた腫瘍(できもの)が発見されることで分かります。
線維肉腫は主に皮膚や皮下にできますが、骨での発生も報告されています。
体の部位としては、口腔、四肢で多くみられますが、乳腺や体幹、爪下、まぶたでの発生もみられます。
初期では特に症状はみられませんが、例えば口腔内に線維肉腫ができた場合、腫瘍が大きくなれば食べにくさが出てきたり、よだれが多くなったりするなどの症状が現れるかもしれません。
状態が進むとがんが体に悪影響を及ぼし、食欲が低下したり元気がなくなったりしてきます。
また、腫瘍に壊死(細胞が死ぬ)や潰瘍(かいよう)が起こると、二次的に細菌が感染することもあります。
犬の線維肉腫の原因
線維肉腫は主に線維芽細胞ががん化することで起こりますが、その原因は明らかにはなっていません。
がんの中では転移率は低いといわれていますが、肺への転移を起こすことがあるので、必要であれば患部と胸部のX線検査が行われます。
また、発生部位の近くで大きくなったり硬くなったりしているリンパ節があれば、針でついて転移がないか細胞を簡易的に調べます。
がんがどこまで深く広がり、他の組織などにどのような影響を与えているかを詳細に検査するためにCT検査やMRI検査が考慮されることもあります。
治療や生検で得られた組織は病理組織検査に送られ、腫瘍の種類や悪性度の指標などが調べられます。
元気・食欲がないときや検査・治療で麻酔をかける際、全身の状態の把握に血液検査や超音波検査なども行われます。
線維肉腫の主な検査
- X線検査
- リンパ節を針でついて細胞をみる
- CT検査
- MRI検査
- 病理組織検査
など
犬の線維肉腫の予防方法
細胞のがん化にはさまざまな要因が関わりあうと考えられていますが、線維肉腫の原因は明らかになっておらず、事前に予防することは困難です。そのため、早期発見や早期治療が重要になります。
がんの悪性度にもよりますが、線維肉腫が小さい段階で発見されると、完全切除もしやすく、放射線などの治療にも反応しやすいといわれています。
口の中や体、足などにできものができていないかを日ごろからチェックすることが早期発見につながります。
犬が線維肉腫になってしまったら
線維肉腫の特徴として
- 線維肉腫が発生した部位で深く広がり骨まで侵すことも多い
- 転移率は高くない
- 完全切除でも再発することがあるが、不完全切除の方が再発しやすい傾向にある
というものがあります。
これらより、治療では発生した線維肉腫を完全に切除し、その再発を抑えるということがメインとなります。
線維肉腫の主な治療法は外科的切除です。
外科的切除は腫瘍細胞を残さないことを目標に行われますが、切除しきれなかった場合は再切除か放射線治療が行われます。
放射線治療は単独では線維肉腫にあまり効果がないといわれていますが、外科手術と放射線治療の組み合わせや、放射線治療と温熱療法の併用が推奨されています。
放射線治療は大学附属動物病院などの二次診療施設に設備が限られます。全身麻酔下で行われ、毎日から数日おきに数回実施する場合もあります。
また、抗がん剤などを使った化学療法は切除部位の再発率の減少などを目的に使用されることがあります。
以下は主な発生部位である口腔内と四肢の線維肉腫の特徴です。
口腔内の線維肉腫
犬の口腔の悪性腫瘍の中でも線維肉腫はよくみられるといわれており、全体では老齢犬で起きやすく、犬種や性別は関係ないといわれていますが、口腔の線維肉腫では起こりやすい年齢や犬種がみられます。
比較的若齢(7~9歳)で、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬種、そして雄で起こりやすい傾向にあるという報告もあります。
病理組織検査では腫瘍の塊からまとまった量の細胞の形や配列、状態を見て、腫瘍の悪性度の指標をみることができます。しかし、口腔の線維肉腫では実際には悪性であっても病理組織検査では良性または低悪性度のような所見がみられることもあり、急速に大きくなったり再発したりするときには積極的な治療が行われます。
口腔の線維肉腫は巨大になると飲食が難しくなるので、完全切除が難しい場合は腫瘍を小さくする目的での外科切除などが行われることもあります。
四肢の線維肉腫
線維肉腫は転移の確率もそれほど高くないので、転移がみられないときは発生したがんを切除し再発を防ぐということが重要です。よって四肢に線維肉腫が発生した場合、断脚を考慮することもあります。
線維肉腫などのがんは早期発見で治療やその後の経過もよいものになる可能性があります。日ごろから全身のチェックをこまめに行い、できものなど気になるものが見つかった場合は動物病院を受診しましょう。